会社を買う前に確認すべきこと|簿外債務・粉飾・契約後の紛争を防ぐ

「うちの会社、引き継いでくれないか」。そう言われるのは、たいてい知っている相手からです。取引先の社長、同業の先輩、顧問税理士が紹介してくれた会社。仲介会社は入っていません。

知っている相手だから、細かいことは聞きにくい。値段は向こうが言った金額から始まり、資料は頼めば出てくるけれど、何を頼めばいいのか分からない。そのまま契約して、あとから知らなかった負債が出てくる。相対取引の失敗は、ほとんどこの形をしています。

この記事では、会社を買う前に買い手が自分で確認すべきことを、簿外債務・粉飾・契約後の紛争の三つに分けて整理します。

「知り合いだから大丈夫」が、いちばん多い入口

仲介会社が入る取引では、買い手が売り手の会社を調べる手続きが決まっています。デューデリジェンスと呼ばれるもので、買う前に相手の会社の財務・法務・労務を確認します。中小企業庁の中小M&Aガイドラインも、買い手がこの調査を行うことを前提に手続きを整理しています。

相対取引には、この手続きを促す人がいません。売り手は知り合いで、悪意もない。だから買い手は「調べる」という発想を持たないまま進みます。

ここで押さえておきたいのは、売り手自身が自社の問題を把握していないことが珍しくない、という点です。長年同じ税理士に任せてきた決算書に、社長が読んだことのない項目があるのは普通のことです。売り手に悪意がなくても、買い手が知らずに引き継ぐものは残ります。

簿外債務とは何か、どこに隠れるか

簿外債務とは、決算書の負債に載っていない支払い義務のことです。会社を株式ごと引き継ぐと、これらはそのまま買い手の会社の負債になります。

隠れる場所は、おおむね決まっています。

  • 未払いの残業代 タイムカードと給与台帳を突き合わせないと見えません。過去にさかのぼって請求される可能性があります。
  • 退職金 就業規則に退職金の定めがあるのに、引当金を積んでいない会社は多くあります。従業員の勤続年数が長いほど、金額は大きくなります。
  • リース契約 車両や機械のリースは、残りの期間分が支払い義務として残ります。決算書の注記に載っていないこともあります。
  • 保証債務 他社や社長個人の借入の保証人になっている場合、決算書には出てきません。契約書と金融機関からの書類で確認します。
  • 税務の否認 過去の処理が税務調査で否認されれば、追加の税金は買収後の会社にかかります。役員報酬や交際費、家族への支払いは見ておく項目です。

どれも、決算書の数字だけを見ていても気づきません。就業規則、契約書、金融機関からの書類。数字の外にある資料を頼むところから始まります。

粉飾はこう見える

粉飾と聞くと大きな事件を思い浮かべますが、小さな会社で起きているのは、もっと地味なものです。故意ではなく、長年のやり方の結果として、決算書が実態と違っている。

  • 売上の前倒し 期末に大きな売上が立ち、翌期の初めに返品や値引きが出ている。月ごとの売上と入金の動きを見れば分かります。
  • 在庫 在庫の金額が毎年少しずつ増えている。売れない商品を評価し直さずに持ち続けているか、実地棚卸をしていないかのどちらかです。
  • 社長への貸付金 資産の側に「役員貸付金」がある。回収の見込みがなければ、それは資産ではありません。
  • 売掛金の滞留 特定の取引先の売掛金が何期も残っている。回収できていないものが資産として計上されています。

いずれも、決算書を3期分並べて、増え続けている項目と減らない項目を探すところから見えてきます。1期分だけでは分かりません。

契約後の紛争は、契約前に決まっている

「従業員はみんな残ると言っていた」「あの取引先はそのまま続くと聞いていた」「引き継ぎは半年手伝うと言っていた」。相対取引で契約後に起きるもめごとは、口約束を契約書に書かなかったことから始まります。

契約書に書くべきものは三つあります。売り手が「これは事実です」と表明する事項(表明保証)。従業員や取引先について、いつまでに何をするかという引き継ぎの条件。売り手が同じ商圏で同じ事業を始めないという競業避止の約束。

これらが書かれていない契約書で、あとから言えることはほとんどありません。契約書は、もめたときに読むものではなく、もめないために書くものです。

株式譲渡と事業譲渡で、確認することが変わる

会社を買う形は大きく二つあります。株式譲渡は、会社の株式を買い取って会社ごと引き継ぐ形。事業譲渡は、会社から事業に使う資産や契約を選んで買い取る形です。

株式譲渡では、会社の過去がすべて付いてきます。簿外債務も、過去の税務も、そのままです。だから確認は負債と税務に重心が置かれます。株式譲渡の手続きでは、株主名簿で株主を確認し、定款に譲渡制限があれば会社の承認を得ます。

事業譲渡では、引き継ぐものを一つずつ決めます。負債を引き継がない選択もできますが、その代わりに、取引先との契約や従業員の雇用契約は一つずつ相手の同意を得て移す必要があります。許認可は原則として引き継げず、買い手が取り直します。事業譲渡契約書に何を含め、何を含めないかが確認の中心になります。

どちらの形にするかで、確認する項目も、もらう資料も変わります。形を決める前に、両方の場合で何が付いてくるかを見ておくことが、契約後の驚きを減らします。

誰に何を聞けばいいか

ここまでの項目を全部自分で確認するのは、慣れていなければ難しいものです。ただ、全部を専門家に任せる必要もありません。聞く相手を分けます。

  • 顧問税理士 決算書の読み方、税務の処理、税務調査で問題になりそうな点。買い手側の税理士に見てもらうのが基本です。売り手の税理士は売り手の立場です。
  • 弁護士 契約書の条項、表明保証の書き方、競業避止の範囲。契約書の案ができた段階で見てもらいます。
  • 第三者の目 何を確認すべきか、どの資料を頼むべきか、もらった資料のどこを見るか。ここは税理士でも弁護士でもなく、売り手と買い手のどちらの側でもない人に整理してもらうのが向いています。

専門家に頼む範囲を絞れば、費用も絞れます。最初に論点を並べる作業を自分でやるか、誰かと一緒にやるかで、その後にかかる手間が変わります。

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京都で会社を引き継ぐ方へ

京都は、同業の組合や地域のつながりの中で「引き継いでくれないか」という話が動く土地です。仲介会社を通さない相対の取引が多く、当社にも「知人から譲り受ける話があるが、何を確認すればいいか分からない」というご相談が届きます。

つなぐパートナーズは、京都の中小企業の事業承継・M&Aを専門にしています。代表の吾郷が、1,000件以上のご相談をお受けしてきました。売り手側の支援が中心ですが、買い手側の相談もお受けしています。

買うと決めていない段階で構いません。手元にある資料を見せていただければ、何を確認すべきかをお伝えします。京都以外の方のご相談にも対応しています。


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