後継者がいない。建物や設備も古くなってきた。そろそろ区切りをつけたいけれど、医療法人は個人の診療所のように簡単には閉じられない。自分が辞めたら、法人は、診療所は、通ってくれている患者さんは、長く働いてくれた職員はどうなるのか。
持分あり医療法人の出口は、大きく分けて3つです。法人を解散する、持分なしの医療法人へ移る、法人ごと別の医師や歯科医師に引き継いでもらう。どれを選ぶかで、職員と患者さんの行き先も、院長の手元に残るものも変わります。
そして、どれを選ぶにしても、診療を続けているうちに決める方が、選べる道が多く残ります。医療法では、診療所を1年以上休止すると、開設の許可を取り消されることがあるためです(第29条)。この記事では、京都府内で持分あり医療法人の今後を考え始めた院長に向けて、3つの出口を医療法の条文と厚生労働省の資料をもとに整理します。
持分あり医療法人は、なぜ簡単に閉じられないのか
持分あり医療法人は、2007年4月1日に施行された医療法の改正以降、新しくつくることができなくなりました。すでにある法人は「経過措置医療法人」として、当分のあいだ存続が認められています。
存続は認められていても、法人を動かし続けるには条件があります。医療法人の理事長は、原則として医師または歯科医師の理事から選ばなければなりません(第46条の6)。都道府県知事の認可を受ければ例外もありますが、後を継ぐ医師や歯科医師がいなければ、法人を今の形のまま続けることは難しくなります。
また、持分あり医療法人では、定款の定めに基づいて、社員が退社するときに持分の払い戻しを求められたり、社員が亡くなったときに相続人から払い戻しを求められたりすることがあります。医療法人は配当ができないため利益が法人に積み上がりやすく、持分の評価額が出資したときよりずっと大きくなっていることも少なくありません。
かといって、診療をやめて様子を見ることもできません。診療所を1年以上休止すると、開設の許可を取り消されることがあります。許可を失うと、法人を誰かに引き継いでもらうときの大事な材料がなくなります。区切りをつけるなら、診療を続けながら行き先を決める必要があります。
出口① 解散する|職員と患者さんは、ほかへ移ることになる
医療法人が解散する事由は、医療法第55条に定められています。社員総会の決議のほか、目的たる業務の成功の不能、社員の欠亡、他の医療法人との合併、破産手続開始の決定などです。
社員総会の決議で解散する場合は、原則として総社員の4分の3以上の賛成が必要です。そのうえで都道府県知事の認可を受けなければならず、知事は認可の前に医療審議会の意見を聴きます。手続きには時間がかかります。
解散すると診療所は閉じるため、職員は退職することになり、患者さんにはほかの医療機関を案内することになります。閉院した後も、カルテは5年間保存しなければなりません(医師法第24条、歯科医師法第23条)。
お金の面では、清算の手続きで借入などの債務をすべて返したうえで、残った財産は定款の定めに従って分配されます。持分あり医療法人には改正前の第56条が引き続き適用されるため、定款に出資額に応じて分配する定めがあれば、残った財産は出資者に分配されます。手元の資金で債務を返しきれない場合は、この出口は選びにくくなります。
出口② 持分なしへ移る|期限は2029年12月31日まで延びた
2つ目は、出資者が持分を放棄して、持分なし医療法人へ移る方法です。移行の計画について厚生労働大臣の認定を受ける「認定医療法人制度」を使えば、出資者の相続税や贈与税の納税の猶予・免除や、法人に贈与税を課さない特例を受けながら進められます。
この認定を受けられる期限は、2029年12月31日です。もともとは2026年12月31日まででしたが、2026年度の改正で3年延長されました。ネット上の解説には古い期限のまま残っているものもあるので注意してください。認定を受けた後は、認定の日から5年以内に移行を終える計画が必要で、審査にかかる期間は2025年度の実績で平均約3か月です。
移行すると法人はそのまま残るので、診療を続ける限り、職員と患者さんに大きな変化はありません。ただし、出資持分は放棄するため、持分を売って対価を受け取ることはできなくなり、放棄した持分は戻りません。院長が受け取るお金は、役員としての退職金が中心になります。
持分なしに移ったあとでも、社員の入れ替えと理事長の交代によって、法人を別の医師や歯科医師に引き継いでもらうことはできます。後継者がいない場合、移行は「持分の問題を片づけてから、引き継ぎ先を探す」という順番をとることになります。
出口③ 法人ごと引き継いでもらう|職員と患者さんごと続けられる
3つ目は、医療法人を、別の医師や歯科医師に法人ごと引き継いでもらう方法です。診療所を続ける形で引き継いでもらえれば、職員の雇用も、通ってくれている患者さんとの関係も、そのまま残すことができます。
株式会社の株式譲渡に近い考え方ですが、医療法人ならではの決まりがあります。医療法人の社員(株式会社でいう株主にあたる構成員)は、出資の額に関係なく1人1個の議決権を持ちます(第46条の3の3)。出資持分を移すだけでは法人の意思決定は移らないため、引き継ぐ側を社員に加え、元の社員が退社する手続きを合わせて行います。
株式会社などの営利法人は、医療法人の社員になることができません。また、理事長には原則として医師または歯科医師を選任します。引き継ぐ相手は、この条件を満たせる人に限られます。
どんな相手が引き継ぐのか
「うちの法人を引き継いでくれる人はいるのか」。後継者がいない院長が最初に気になるのは、ここだと思います。持分あり医療法人を引き継ぐ相手は、大きく分けて次の2つです。
開業を考えている勤務医や、個人で開業している医師・歯科医師。本人が社員として加わり、理事長に就く形です。理事長の要件をそのまま満たせるので、法人の形を変えずに引き継げます。出資持分を買い取る場合は、その資金をどう用意するかが、話を進めるうえでの課題になります。すでに自分の診療所を持っている医師が引き継ぐ場合は、その診療所を法人に加えるかどうかも決めることになります。
地域の別の医療法人。医療法人どうしであれば、合併という方法があります(第57条)。社団の医療法人は、合併契約について総社員の同意を得たうえで、知事の認可を受けます(第58条の2)。合併すると、相手の法人が、行政の許可に基づくものも含めて院長の法人の権利義務を引き継ぐため(第58条の5)、解散や清算の手続きを経ずに、診療所を続けたまま引き継いでもらえます。院長の法人は相手の法人に吸収されてなくなりますが、職員と患者さんは相手の法人のもとで続きます。出資持分の扱いは合併の形によって変わるため、専門家に確認してください。
なお、株式会社などの営利法人は医療法人の社員になれないため、法人を買い取って経営するという形はとれません。そうした申し出があった場合は、どういう形を考えているのかを慎重に確かめてください。
お金の面では、持分あり医療法人のまま引き継いでもらえば、出資持分を譲渡して対価を受け取れます。退職金と組み合わせることもできます。どの形で受け取るかで税金のかかり方が変わるため、形を決める前に税理士に確認してください。
手続きとしては、社員の入退社と役員の変更、変更の届出や、理事長が代わる場合の登記などが必要です。診療所の名称や場所を変える場合は、定款の変更について知事の認可も要ります(第54条の9)。
引き継ぎで院長が引っかかりやすい3つのこと
法人ごと引き継いでもらう話が進んだとき、院長が実際に悩むのは、制度よりも次の3つです。
借入。法人の借入が残っている場合、引き継ぐ側がそのまま引き受けるのか、引き継ぎの時点で返すのかを決める必要があります。引き受けてもらう額によって、実質的な条件が変わります。
個人保証。法人の借入を、理事長が個人で保証していることがあります。法人を引き継いでもらっても、保証は自動では外れません。借り換えや保証人の交代について、金融機関と話し合う必要があります。
建物。診療所の建物が賃貸なら、貸主との契約をどう引き継ぐか、貸主の承諾が得られるかを確かめます。院長個人の持ち物なら、法人に貸し続けるのか、売るのかを決めることになります。
3つを比べる|職員と患者さん、院長の手元に残るもの
| 出口 | 職員 | 患者さん | 院長の手元に残るもの | 主な手続きと時間 |
|---|---|---|---|---|
| 解散 | 退職 | ほかの医療機関へ。カルテは5年保存 | 債務を返した後の残余財産(定款に従い出資者へ) | 社員総会(原則4分の3以上)・知事の認可・医療審議会・清算 |
| 持分なしへ移行 | そのまま | そのまま | 持分は放棄。受け取るなら退職金 | 移行計画の認定(審査平均約3か月)・移行は5年以内・期限2029年12月31日 |
| 法人ごと引き継ぎ | 雇用を引き継げる | 通院を続けられる | 持分の対価や退職金 | 社員の入退社・役員の変更・届出。引き継ぐ相手が見つかるまでの時間 |
職員と患者さんを残せるかどうか、院長の手元に何が残るか、手続きにどれだけ時間がかかるか。3つの出口は、この3点で大きく違います。どれを選ぶにしても、診療を続けているうちに決めることが前提になります。
京都で医療法人の今後を考えている院長へ
京都府内の医療法人の申請や届出の書類は、京都市内の法人は京都府の医療課、京都市外の法人は管轄の保健所に出します。
実際の手続きは、定款の変更や届出は行政書士、登記は司法書士、税金は税理士と、専門家が分かれます。どの出口を選ぶかによって、関わる専門家も変わります。
当社は、3つ目の「法人ごと引き継いでもらう」出口で、職員と患者さんごと引き継いでくれる相手を探すお手伝いをしています。「解散しかないと思っていた」「持分なしに移るか迷っている」という段階から、ご相談いただけます。
この記事の数字と出典
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 持分あり医療法人の新設 | 2007年4月1日施行の改正以降は設立できない(既存の法人は経過措置医療法人として存続) | 厚生労働省「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」(2026年3月改訂) |
| 理事長 | 原則として医師または歯科医師である理事から選出(知事の認可で例外) | 医療法 第46条の6 |
| 社員の議決権 | 出資額にかかわらず1人1個 | 医療法 第46条の3の3 |
| 社員総会の決議による解散 | 総社員の4分の3以上の賛成と知事の認可(認可の前に医療審議会の意見) | 医療法 第55条 |
| 診療所の休止 | 正当な理由なく1年以上再開しないと、開設許可の取消しや閉鎖命令の対象 | 医療法 第29条 |
| 認定医療法人の認定期限 | 2029年12月31日まで。移行は認定日から5年以内 | 医療法 附則(平成18年法律第84号)第10条の3/同手引書 |
| 営利法人と社員 | 営利法人は医療法人の社員になれない | 厚生労働省「医療法人の基礎知識」 |
最終確認:2026年9月25日
あわせて読まれています
まずはご相談ください
売ると決めていない段階で構いません。
「引き継いでくれる相手がいるのか」だけでも構いません。
一度、話を聞かせてください。
ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。
監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
→ 代表紹介

