建築工事業・建設会社の売却価格の相場|京都の小規模M&A

「うちの会社、売るとしたらいくらになるんやろう」

建築工事業や建設会社を営む社長から、いちばん最初に出てくるのがこの質問です。ただ、話を聞いていくと、本当に気にされているのはお金だけではありません。自分が抜けたあと、建設業許可はどうなるのか。ここで止まってしまう社長が少なくありません。

このページでは、建築工事業・建設会社の売却価格がどう決まるのかと、許可を引き継ぐために何が必要なのかを、あわせて整理します。京都で小規模なM&Aを扱っていて、相談で出てくる順番のとおりに並べました。

建築工事業・建設会社の売却価格の相場

小規模な建築工事業・建設会社の売却価格は、時価純資産に、営業利益の2〜3年分を足した金額が出発点になります。会社の状態によっては、営業利益の2年分から5年分まで幅が出ます。

実務で使われている目安で、法律で決まった式があるわけではありません。最終的な金額は買い手との交渉で決まります。

価格の出し方

「時価純資産」は、会社の資産から負債を引いた金額を、帳簿の数字ではなく今の価値に直したものです。建設業の場合、ここで動きやすいのが次の項目です。

  • 重機・車両:帳簿上は減価償却が終わっていても、まだ使えるものには値段がつきます
  • 土地・資材置場:取得時の価格と今の時価が大きく違うことがあります
  • 未成工事支出金・未成工事受入金:進行中の工事にかかった費用と、受け取った前受金です。決算日をまたぐ工事が多いほど、ここの精査に時間がかかります
  • 退職金の引当:職人さんの勤続年数が長い会社ほど、帳簿に載っていない負担が出てきます

「のれん」は、その会社が今後も利益を出し続けるであろう力に対する上乗せです。営業利益の何年分を乗せるかは、次の章で書く7つの要素で変わります。

参考例

たとえば時価純資産が4,000万円、営業利益が年1,000万円の会社であれば、4,000万円+(1,000万円×2〜3年)で、6,000万円から7,000万円あたりが最初の目線になります。

ここから、許可の等級や技術者の人数、元請けとの関係といった要素で上下します。社長の役員報酬が相場より高い、または低い場合は、その分を利益に戻して計算し直します。

赤字でも売れるケースがある

直近が赤字でも、売却できる会社はあります。買い手が見ているのは、自分が引き継いだあとにいくら稼げるかだからです。去年の利益額そのものではありません。

次のような会社は、赤字でも話が進みます。

  • 社長の役員報酬を下げれば黒字になる
  • 建設業許可の等級や工種が、買い手が自力で取るには時間のかかるものである
  • 経営事項審査の点数が積み上がっていて、公共工事の入札に参加できる
  • 元請けとの取引が長く続いている

一方で債務超過の状態であれば、株式をそのまま譲渡する形は難しくなり、事業だけを切り出して譲る形を検討することになります。この場合の条件は赤字・債務超過でもM&Aはできるのかで詳しく書いています。

自分が抜けたら、許可はどうなるのか

建設業のM&Aで、誤解がいちばん多いところです。

株式譲渡なら、許可番号はそのまま残る

株式を譲渡する形でM&Aをした場合、会社そのものは変わりません。社長と株主が入れ替わるだけなので、建設業許可は番号ごとそのまま続きます。経営事項審査の点数も、これまでの工事実績も残ります。許可を取り直す必要はありません。

ただし、会社を合併する、会社分割をする、事業だけを譲渡する、という形をとる場合は別です。この場合は建設業法第17条の2にもとづいて、あらかじめ認可を受けておく必要があります。事前の認可なので、手続きを飛ばすと工事を請け負えない空白期間が生まれます。

残らないのは「人」のほうです

許可が残ると聞いて安心される社長が多いのですが、残るのは許可だけです。

建設業許可には、会社に置いておかなければならない人が2種類あります。

  • 経営業務の管理責任者(常勤役員等)。建設業の経営を原則として5年以上経験した常勤の役員です
  • 営業所技術者等(旧・専任技術者)。営業所ごとに常勤で置く、資格または実務経験のある技術者です

この2つは、同じ人が兼ねることができます。国土交通省の建設業許可事務ガイドラインに、次のように書かれています。

常勤役員等が同時に営業所技術者等の要件を備えている場合には、同一営業所(原則として本社又は本店等)内に限って当該営業所技術者等を兼ねることができる

小規模な建設会社では、社長がこの2つを一人で兼ねていることがほとんどです。営業所が本店ひとつなら、制度上もそれで問題ありません。

問題は、その社長が会社を離れたあとです。後任がいないまま要件を欠くと、建設業法第29条第1項第1号にもとづいて、許可は取り消されます。株式譲渡で許可番号が残っていても、中身の人がいなければ維持できません。

だから買い手は、実質的に次の条件を満たせる会社に絞られます。

  • 経営業務の管理責任者になれる人を、常勤の役員として出せること
  • 営業所技術者等になれる有資格者を、常勤で置けること

「人を貸してもらう」「応援に来てもらう」という形では、常勤の要件を満たしません。ここが買い手選びの分かれ目になります。

引退後の許可維持をどうするか

この問題には、実務でよく使われる形が2つあります。

ひとつは、社長が譲渡後も1年ほど会社に残る形です。役員として残り、その間に買い手側が人を育てるか採用します。1年というのは、私がこれまで関わってきた案件でおおむね落ち着いてきた長さです。案件によっては半年で済むこともあれば、2年かかることもあります。

もうひとつは、買い手が先に有資格者を採用してから承継する形です。買い手にその余力があれば、こちらのほうが引継ぎは早く終わります。

どちらにしても、譲渡の条件を詰める前に決めておくことです。あとから「1年は残ってください」と言われて揉めるのは、この論点を先送りにした場合です。

売却価格を決める7つの要素

のれんに何年分を乗せられるかは、次の7つで決まります。

①建設業許可の種類・等級

一般建設業か特定建設業か、許可を持っている業種は何か。特定建設業の許可は財産的基礎の要件が重く、買い手が自力で取るには時間がかかるため、評価が上がります。

②経営事項審査の点数

公共工事の入札に参加するための評価点です。点数は長年の工事実績と財務内容の積み重ねで決まるため、買い手が短期間で作れるものではありません。公共工事を狙う買い手にとっては、ここが買う理由そのものになります。

③営業所技術者等・有資格者

一級施工管理技士や一級建築士が社内に何人いるか。有資格者がいなければ、許可そのものを維持できません。社長以外に有資格者がいる会社は、それだけで評価が変わります。

④元請比率・主要顧客

元請けとして直接受注しているのか、下請けが中心なのか。元請け比率が高いほど利益率が安定します。ただし1社への依存度が高すぎると、その取引が続くかどうかのリスクとして見られます。

⑤受注残

すでに契約済みで、これから施工する工事の残高です。買い手から見れば、引き継いだ直後の売上が読めるということなので、評価に直結します。

⑥工種の専門性

ほかの会社が簡単に真似できない工種を持っているか。特殊な工法、限られた元請けとしか取引のない分野、必要な資格保有者が少ない工事などです。同業の買い手が「自社にない工種だから欲しい」と考える理由になります。

⑦財務状況・個人保証

借入の残高と、社長個人が背負っている保証です。個人保証は、M&Aの交渉のなかで金融機関と話をして外していく形になります。純資産が厚い会社ほど価格は上がります。赤字でも売れる会社があるのは、上に書いたとおりです。

買い手はどんな会社か

建築工事業・建設会社を買いたいと考えるのは、次のような相手です。

  • 同業の建設会社・建築会社:いちばん多い形です。許可の業種を増やしたい、技術者を確保したい、施工エリアを広げたいという動機です。「常勤の役員と有資格者を出せるか」という条件を、もともと満たしています
  • 総合建設会社・ゼネコン:下請けとして付き合いのある会社を、社内に取り込む形です。職人の確保が目的になることが多い
  • 不動産会社・設備会社:自社で手がけている事業と工事をつなげたい相手です。不動産会社が施工部門を持ちたい、設備会社が建築の許可を持ちたい、といった動機になります
  • 異業種からの参入企業:建設業許可の取得に時間がかかるため、許可を持つ会社ごと買うという判断です
  • 独立開業を目指す技術者:経営業務の管理責任者の要件を自分で満たせる有資格者が、会社ごと引き継ぐ形です。規模の小さい会社では、この形がいちばん現実的なこともあります

廃業とM&Aで、手元に残るものはどう違うか

「もう畳もうか」と考えている社長に、知ってほしい違いです。お金だけの話ではありません。

お金

廃業には費用がかかります。重機や車両の処分、資材置場の原状回復、事務所の解約、登記や清算の手続き。従業員に退職金を払う会社であれば、その支払いも必要です。これらを払い終えたあと、残った資産が社長の手元に来ます。

M&Aの場合は、株式の対価を受け取ります。計算でいえば、時価純資産に営業利益の数年分が乗った金額です。廃業では、この上乗せ部分がまるごと消えます。

雇用

廃業すれば、職人も事務員も職を失います。長く一緒にやってきた人ほど、次の勤め先を探すのに苦労します。M&Aでは、従業員の雇用は買い手に引き継がれるのが前提です。労働条件をどう維持するかも、契約のなかで決めます。

元請けとの関係

廃業すると、元請けは新しい下請けを探すことになります。長年続いてきた取引が、そこで終わります。M&Aであれば、会社が続くので取引も続きます。元請けにとっても、慣れた会社が残るほうが助かる場合がほとんどです。

許可と経営事項審査の点数

廃業届を出せば、建設業許可は消えます。何十年かけて積み上げた経営事項審査の点数も、ゼロに戻ります。復活させることはできません。M&Aであれば、許可も点数も会社に残ったまま次の代へ渡ります。

この4つのうち、社長が最後まで気にされるのは、たいていお金ではありません。職人さんの行き先と、元請けさんへの義理です。

売却価格と許可を守るために、今からできること

すぐ売るつもりがなくても、やっておいて損のないことがあります。

更新の期限を一枚にまとめる

建設業の会社には、期限のある手続きが3種類あります。ばらばらに管理していると、うっかり切らしてしまうことがあります。更新が切れた状態では、M&Aの話そのものが止まります。

  • 建設業許可:5年ごとの更新です
  • 経営事項審査:有効期間は審査基準日(決算日)から1年7か月です。公共工事を毎年直接請け負うには、期間が切れないよう決算後すみやかに受け直す必要があります
  • 資格の更新・講習:監理技術者資格者証など、定期的な講習が必要なものがあります

この3つの期限を1枚の紙にして、事務所に貼っておくだけで違います。

社長以外に、要件を満たせる人を作る

経営業務の管理責任者の要件を満たせる役員が社長以外にもう一人いる、または営業所技術者等になれる有資格者が社内にいる。それだけで、買い手の候補が広がります。

資格の取得には時間がかかります。売却を考え始めてからでは間に合わないことが多いので、早いに越したことはありません。

決算書を整える

社長個人の支出が会社の経費に混ざっていないか。役員報酬が実態と合っているか。買い手は必ずここを見ます。3期分をきれいにしておくと、交渉が早く進みます。

京都の建築・建設会社のM&A事情

京都は、エリアによって事情がかなり違います。

  • 市内中心部・観光エリア(中京区、東山、祇園周辺):町家の改修や店舗の内装工事に強い会社が多く、この分野の施工実績は、宿泊施設や飲食店を手がける買い手から評価されます
  • 京都市南部・伏見区・京都駅周辺:工場や倉庫、物流施設の工事が中心です。事業用の建物を扱う買い手が動きやすいエリアです
  • 府内郊外(宇治、長岡京、亀岡、舞鶴など):公共工事の比率が高く、経営事項審査の点数を目当てにした買い手が来ます

全国の相場と比べると、京都の建設会社はやや高めの評価がつく傾向があります。文化財や町家に関わる施工実績、観光需要に支えられた改修工事の安定した受注が、ほかの地域にはない材料になるためです。

なお、土木工事を中心にされている会社は、評価される要素も買い手の顔ぶれも変わります。そちらは土木業・土木会社の売却で別にまとめています。

相談から引き継ぎまでの流れ

おおまかには、相談と会社の状況の整理から始まり、買い手を探し、条件の交渉と買い手による調査を経て、契約と引き継ぎに進みます。小規模な案件で、半年から1年ほどが目安です。途中でやめることもできます。M&Aそのものの進め方はM&Aを初めて考えている社長へにまとめました。

よくある質問

Q. 建設業許可はM&Aで引き継げますか

株式譲渡であれば、会社が変わらないので許可はそのまま残ります。合併・会社分割・事業譲渡の場合は、建設業法第17条の2にもとづく事前の認可が必要です。ただしどちらの形でも、経営業務の管理責任者と営業所技術者等の要件は、譲渡後も満たし続ける必要があります。

Q. 経営事項審査を受けていない、または点数が低くても売れますか

売れます。経営事項審査の点数が意味を持つのは、公共工事の入札に参加する場合です。民間工事が中心の会社であれば、買い手が見るのは元請けとの関係や技術者、工種の専門性のほうです。点数がないこと自体が、売れない理由にはなりません。

Q. 未完成の工事が残っている状態でも売れますか

売れます。むしろ受注残があることは、引き継いだ直後の売上が読めるという意味で評価されます。ただし工事ごとの採算と進捗、未成工事支出金の中身は、買い手が必ず確認します。赤字が確定している工事があれば、先に伝えておくほうが交渉はうまくいきます。


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まずはご相談ください

建設業のM&Aは、価格の話と許可の話が絡み合います。「いくらで売れるか」だけを調べても、許可を維持できる買い手でなければ話は進みません。許可の論点を先に整理しておけば、買い手の候補は最初からはっきりします。

まだ売ると決めていない段階でも構いません。「うちの場合はどうなるのか」を一度整理するだけでも、次に何をすればいいかが見えてきます。相談の内容が外に出ることはありませんし、その場で何かを決める必要もありません。

「売ると決めたわけではない」という段階でも構いません。

会社がいくらになるのか、廃業と売却どちらが得なのか。そういった入口でも、お話をお聞きします。

一人で抱えているより、一度ご相談いただく方が、気持ちが楽になることがあります。

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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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