事業承継・M&A補助金とは|中小企業庁の支援制度を分かりやすく解説

中小企業の事業承継・M&Aを支援するための国の補助金制度について、全体像と各制度の中身を分かりやすく解説します。制度は複数の枠に分かれており、対象者・補助率・上限額が異なります。本記事では、最新の公募内容を踏まえ、制度の本質を整理しました。

事業承継・M&A補助金とは何か

事業承継・M&A補助金は、中小企業庁が運営する「中小企業生産性革命推進事業」の一環として実施される補助金制度です。中小企業者及び個人事業主が、事業承継・事業再編・事業統合を契機とした取り組みを行う際に、その経費の一部を補助することで、事業承継・事業再編・事業統合を促進し、生産性向上による我が国経済の活性化を図ることを目的としています。

本補助金は、デジタル庁が運営する補助金電子申請システム「jGrants」を通じて電子申請する形式で、複数回の公募が継続的に実施されています。申請に際しては、GビズIDのうち「GビズIDプライム」アカウントの取得が必要です。本補助金は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)に基づき実施されているため、適正な執行が求められます。

最新の公募情報、公募要領、申請書類の様式等については、中小企業庁が運営する事業承継・M&A補助金の公式ホームページをご確認ください。

補助金の枠と類型

事業承継・M&A補助金は、用途と段階に応じて複数の枠に分かれています。それぞれ対象事業・補助率・上限額が異なるため、自社の状況に合致する枠を選んで申請する必要があります。

枠の名称主な対象事業補助上限額補助率
専門家活用枠
(買い手支援類型・I型)
M&Aで譲り受ける中小企業の費用支援(仲介・FA・DD等)600万円
(+DD上乗せ200万円)
2/3以内
専門家活用枠
(売り手支援類型・II型)
M&Aで譲り渡す中小企業の費用支援600万円
(+DD上乗せ200万円)
1/2 or 2/3以内
PMI推進枠
(PMI専門家活用類型)
M&A後の統合作業を支援する専門家への委託費150万円1/2以内
PMI推進枠
(事業統合投資類型)
M&A後の統合効果最大化のための設備投資等800万円(賃上げなし)
1,000万円(賃上げ実施)
1/2 or 2/3以内
廃業・再チャレンジ枠廃業に係る経費・再チャレンジ事業の経費300万円2/3以内 or 併用枠に従う

上記とは別に、買い手支援類型(I型)で売上規模100億円を目指す企業向けの「買い手支援類型 100億企業特例」(補助上限額2,000万円)があります。また、廃業・再チャレンジ枠は、専門家活用枠・PMI推進枠・事業承継促進枠と「併用申請」が可能で、M&A本体の経費補助に加えて廃業費を上乗せできる仕組みになっています。

本記事では、M&Aと事業承継の現場で利用頻度の高い「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3枠について、以下で詳しく解説します。

専門家活用枠:M&A仲介・FA費用への補助

専門家活用枠は、中小企業者等が事業再編・事業統合に伴って経営資源を譲り受ける、または譲り渡す際の費用を補助する制度です。M&A仲介手数料、ファイナンシャルアドバイザー(FA)費用、デュー・ディリジェンス(DD)費用などが対象となります。

2つの類型(買い手・売り手)

専門家活用枠は、申請者がM&Aで譲り受ける側か譲り渡す側かによって、以下の2類型に分かれます。

  • 買い手支援類型(I型):事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援する類型
  • 売り手支援類型(II型):事業再編・事業統合に伴い株式・経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援する類型

補助上限額と補助率

類型補助率補助下限額補助上限額DD上乗せ廃業費併用
買い手支援類型(I型)2/3以内50万円600万円以内+200万円以内+300万円以内
売り手支援類型(II型)1/2 or 2/3以内50万円600万円以内+200万円以内+300万円以内

売り手支援類型(II型)の補助率は通常1/2以内ですが、以下のいずれかに該当する場合は2/3以内に引き上げられます。

  • 物価高等の影響により営業利益率が低下している事業者
  • 直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の事業者

対象経費の内容

専門家活用枠の補助対象経費は、謝金・旅費・外注費・委託費(FAやM&A仲介費用を含む)・システム利用料・保険料・廃業費(廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費・リースの解約費・土壌汚染調査費・移転移設費用)です。

M&A仲介費用・FA費用については、補助対象経費として認められるための重要な要件があります。FA・M&A仲介費用を補助対象経費とする場合は、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」に登録された登録FA・仲介業者によるFAまたはM&A仲介費用のみが補助対象経費となります。登録FA・仲介業者の一覧は、中小企業庁ホームページおよびM&A支援機関登録制度事務局ホームページで公表されています。

M&Aの要件:DD実施が必須

本補助金における補助対象M&Aは、事業再編・事業統合の実態を伴うものでなければなりません。グループ内の事業再編、物品・不動産等のみの売買、親族間の事業承継等は補助対象外です。また、補助対象M&Aは、デュー・ディリジェンス(DD)を実施していることが要件となります。DDの種類は、財務DD・法務DD・ビジネスDD・税務DD・人事労務DD・知財DD・環境DD・不動産DD・ITDDなど多岐にわたります。

PMI推進枠:M&A後の統合費用への補助

PMI推進枠は、M&A成立後の一定期間内(原則1年以内)に実施するPMI(Post-Merger Integration、経営統合)に係る経費を補助する制度です。M&Aは契約締結で終わりではなく、その後の統合プロセスが事業の成否を分けるため、PMI段階での費用負担を軽減する制度として設計されています。

2つの類型(専門家活用vs事業統合投資)

PMI推進枠は、PMIに必要な費用の性質に応じて2類型に分かれます。両類型の違いは「PMI専門家への委託費」か「設備投資等」かであり、それぞれ別個の公募要領が定められています。

類型主な対象経費補助上限額補助率
PMI専門家活用類型謝金・旅費・委託費(PMI専門家への支援費)150万円以内(+廃業費300万円)1/2以内
事業統合投資類型設備費・外注費・委託費(設備統合等のための投資)800万円 or 1,000万円(+廃業費300万円)1/2 or 2/3以内

事業統合投資類型:賃上げ要件と補助上限額

事業統合投資類型は、M&A後の生産性向上や統合効果の最大化に向けた設備投資を補助する類型です。補助上限額は800万円ですが、補助事業期間内に一定の賃上げを実施する計画を表明することで、補助上限額が1,000万円に引き上げられます。賃上げ要件は、補助事業期間終了時に、公募申請時と比較して事業場内最低賃金が+50円以上となる賃上げを達成することです。

補助率については、中小企業基本法上の小規模企業者の場合は2/3以内、その他の中小企業者等は1/2以内とされています。補助額のうち800万円を超え1,000万円以下の部分の補助率は、小規模企業者であっても一律1/2以内となる点に留意が必要です。なお、補助対象経費における設備費・外注費・委託費のうち、M&A仲介手数料・DD費用・PMI専門家への手数料は対象外です(これらは別の枠で対象とされます)。

PMI専門家活用類型:対象経費と上限

PMI専門家活用類型は、PMI実施に必要な専門家(士業・経営コンサルタント等)への委託費・謝金・旅費を補助する類型です。補助上限額は150万円以内、補助率は1/2以内です。専門家活用枠との同時申請も可能ですが、その場合は専門家活用枠で申請する者(同一の補助対象者)で申請する必要があります。なお、信頼関係構築に関わる専門家支援(説明会の開催、個別面談、主要な取引先への対応等)は補助対象外です。

M&Aクロージング後1年以内の取組であること

PMI推進枠は、M&Aのクロージング後1年以内に実施する取組であることが要件です。当公募申請期日時点でM&Aのクロージング日から1年を超えていないことが必要となります。クロージングとは「最終契約書に基づくM&A取引が実行され、株式や事業等の引渡し手続きと、譲渡代金の支払手続(決済手続)等により、経営権や所有権等の移転が完了すること」を指します。

廃業・再チャレンジ枠:併用申請のしくみ

廃業・再チャレンジ枠は、廃業に係る経費の一部を補助する制度です。会社自体の廃業、または事業の一部廃業(事業撤退)に伴って発生する廃業登記費用・在庫処分費用・解体費用・原状回復費用などが対象となります。

単独申請と併用申請

廃業・再チャレンジ枠は、以下の2つの申請パターンがあります。

  • 再チャレンジ申請(単独申請):M&Aで事業を譲り渡せなかった中小企業者による廃業と再チャレンジ支援。補助率2/3以内・補助下限額50万円・補助上限額300万円以内
  • 併用申請:事業承継促進枠・専門家活用枠(買い手支援類型・売り手支援類型)・PMI推進枠(PMI専門家活用類型・事業統合投資類型)との併用が可能。補助率は併用先の枠の事業費補助率に従い、補助下限額50万円・補助上限額300万円以内

対象となる廃業の経費

経費区分概要
廃業支援費廃業に関する登記申請手続に伴い司法書士等に支払う経費、会計処理や税務申告に係る専門家活用費用(補助上限額は50万円)
在庫廃棄費既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費
解体費既存事業の廃止に伴う建物・設備等の解体費
原状回復費借りていた設備等を返却する際に義務となっていた原状回復費用
リースの解約費リースの解約に伴う解約金・違約金
土壌汚染調査費土壌の汚染状況を把握するために支払う費用
移転・移設費(併用申請のみ)効率化のため設備等を移転・移設するために支払われる経費

商品在庫等を売却して対価を得る場合の処分費は補助対象経費にならない点、ファイナンスリース取引の解約に伴う解約金・違約金は補助対象となるがリース資産の売買に係る費用は対象外である点に留意が必要です。

補助金申請の全体フロー

事業承継・M&A補助金の申請から補助金受領、その後の報告までの流れは下記のとおりです。

  1. GビズIDプライム取得:電子申請に必須。発行までに1〜3週間程度かかるため、早めに申請する
  2. 公募要領の確認・申請書類の作成:自社が対象となる枠の公募要領を確認し、事業計画書等の書類を作成する
  3. 公募申請(jGrants):電子申請システムjGrantsから公募申請を行う。原則PDF形式での書類提出
  4. 採択発表:書面審査を経て、事務局からjGrantsを通じて採択・不採択の通知が行われる
  5. 交付申請:採択後、補助対象経費に係る見積等を取得した上で、jGrantsを通じて交付申請を行う
  6. 交付決定:事務局による交付申請内容の確認後、交付決定通知書が交付される。交付決定通知書受理後に補助事業に着手する(交付決定前に契約・発注した経費は補助対象外)
  7. 補助事業着手・状況報告:補助事業期間内に、契約・発注・納品・検収・請求・支払いを完了する
  8. 実績報告書の提出:補助事業期間終了後、実績報告書をjGrantsを通じて提出する
  9. 確定検査・補助金請求:事務局の確定検査を経て、補助金額が確定。jGrantsから補助金請求を行う
  10. 補助金交付(振込):確定額が補助対象者の口座に振り込まれる(補助金の交付は補助対象事業完了後の精算後の支払い・実費弁済)
  11. 事業化状況報告(5年間):補助事業期間終了後5年間、事業化状況報告を実施する義務がある

本補助金の補助事業期間は、いずれの枠も2026年6月(上旬予定)から12か月以内を想定しています(14次公募の場合)。最新の公募回における正確な期間については、採択後の交付申請時の手引書等で確認する必要があります。

採択されるためのポイント

事業承継・M&A補助金は、資格要件等の審査と書面審査を経て採択が決定されます。書面審査は、事務局および外部有識者で構成される審査委員会により総合的に行われます。

書面審査の着眼点

書面審査の着眼点は枠ごとに微妙に異なりますが、PMI推進枠(事業統合投資類型)の例で示すと、以下の項目が審査の主軸となります。

  • 事業統合投資(統合効果の最大化に向けた設備等投資)の目的・必要性
  • 補助事業計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるものであること
  • 補助事業計画内容が、事業統合投資を目的としたものであり、取組の合理性・目的達成の蓋然性が高いこと
  • 事業統合投資によって見込まれる統合効果(シナジー等)・地域経済への影響
  • 事業統合投資による成長の見込み(自社の事業環境や外部環境を踏まえること)
  • 財務内容が健全であること

加点事由

本補助金には、審査時に加点される事由が10項目あり、該当する場合は加点書類を提出することで採択率向上が期待できます。

  • 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用
  • 経営力向上計画の認定、経営革新計画の承認、または先端設備等導入計画の認定
  • 地域未来牽引企業であること
  • (連携)事業継続力強化計画の認定
  • ワーク・ライフ・バランス等の推進(えるぼし認定・くるみん認定・両立支援のひろば登録等)
  • 健康経営優良法人であること
  • サイバーセキュリティお助け隊サービスを利用していること
  • 事業場内最低賃金から+30円以上となる賃上げ実施(事業化状況報告時までに達成)
  • 公募申請時点でPMIを実施していること
  • 米国の追加関税措置により大きな影響を受けること

これらの加点事由を「証する書類」(例:経営力向上計画認定書・地域未来牽引企業選定証など)を公募申請時に提出することで、加点が反映されます。

認定支援機関の役割と申請書類の落とし穴

事業承継・M&A補助金の申請にあたっては、認定支援機関(認定経営革新等支援機関)による事業計画策定の支援や審査書類の整備支援を活用する事業者が多くいます。特に廃業・再チャレンジ枠では、再チャレンジ計画について認定支援機関の確認を受けていることが要件となっています。

申請書類における代表的な落とし穴として、(1)M&Aの実態が「物品・不動産等のみの売買」や「親族内承継」と判断されてしまうケース、(2)補助対象経費の契約・発注・支払いの時期が補助事業期間内に収まっていないケース、(3)賃上げ加点要件等の達成見込みを誤って表明してしまうケースが挙げられます。これらは事業計画書策定段階で事前に整理する必要があります。

よくある質問

Q. 補助金は売り手と買い手のどちらが申請するのか?

専門家活用枠では、買い手・売り手のいずれもそれぞれの類型(買い手支援類型I型・売り手支援類型II型)で申請が可能です。それぞれ1申請ずつ別々に申請できます。PMI推進枠(事業統合投資類型)は原則として承継者(買い手)による申請、廃業・再チャレンジ枠の単独申請は売り手側の中小企業者による申請、というように枠ごとに申請主体が異なります。

Q. 補助金で売却費用の全額が補助されるのか?

補助率と補助上限額の制約があるため、全額補助されることはありません。例えば専門家活用枠(買い手支援類型I型)では補助率2/3以内・補助上限額600万円となっているため、補助対象経費が900万円であれば最大600万円(=900万円×2/3)、補助対象経費が3,000万円であっても補助上限額の600万円までとなります。残額は自己負担です。なお、DDに係る費用は別途+200万円以内の上乗せが認められています。

Q. M&A仲介業者の費用は補助対象になるのか?

専門家活用枠ではM&A仲介費用・FA費用は補助対象経費となります。ただし、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」に登録された登録FA・仲介業者によるFA・M&A仲介費用に限られます。登録されていない業者の仲介費用は補助対象外となるため、業者選定の段階で登録状況を確認する必要があります。なお、PMI推進枠(事業統合投資類型)においては、M&A仲介手数料・DD費用・PMI専門家への手数料は補助対象外となる点に留意が必要です(これらは別の枠で対象とされます)。

Q. 採択率はどのくらいか?

採択結果は公募回ごとに事務局から公表されますが、回ごとに採択率は変動します。本補助金は事業の合理性・目的達成の蓋然性・地域経済への影響等を総合的に審査するため、書類の完成度や事業計画の質が採択を大きく左右します。最新の採択結果と採択率については、中小企業庁の公式ホームページで確認することができます。

Q. 京都府独自の補助金との併用は可能か?

国の事業承継・M&A補助金は、自治体独自の補助金制度との併用について、テーマや事業内容から判断して同一または類似内容で重複する場合は補助対象外となります。同一の補助対象経費における自己負担分を超えて他制度からの交付を受ける場合も対象外となります。京都府が運営する「M&A型事業承継支援補助金(京都産業21)」など、自治体独自制度との併用可否は、それぞれの公募要領で対象経費の範囲を確認した上で判断する必要があります。詳しくは京都で会社の売却・引継ぎを考えたら知っておきたい「2つの補助金」を参照してください。


事業承継・M&A補助金は、制度の理解と申請書類の準備に専門知識が必要です。当社は認定支援機関として、M&A仲介と一体で補助金申請支援を行っています。京都府を中心に、これまで多数の事業承継・M&A支援に携わってきました。ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。

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