クリニックの廃業とM&Aの違い|後継者不在の医師が知るべき選択肢

子どもは医師にならなかった。後継者がいない。設備も古くなってきた。もう廃業するしかないと思っていた——。

クリニックを畳むという選択には、廃業以外にもう一つの道があります。それがM&A(第三者承継)です。長年通院してきた患者を別の医師に引き継ぎ、スタッフの雇用を守り、設備を資産として換価する。廃業ではすべて失われるこれらの価値が、M&Aなら適切に評価されます。

本記事では、京都で小規模M&Aを支援する中小企業診断士・事業承継士が、クリニックの廃業とM&Aの違い、それぞれの手続き・費用・影響について整理します。「廃業しか選択肢がない」と思っている院長に、もう一つの道があることをお伝えするのが目的です。

クリニックを閉める2つの選択肢

クリニックを畳む、という決断には実は2つの方法があります。

  • 廃業(閉院):診療を停止し、医療機器を処分し、スタッフを解雇し、テナントを退去する
  • M&A(第三者承継):別の医師・医療法人にクリニックを売却し、患者・スタッフ・設備をそのまま引き継ぐ

多くの院長は「子どもが医師にならなかった=廃業」と考えがちですが、実際には自分で開業を希望する勤務医や、エリア拡大を目指す医療法人といった買い手が存在します。両者の違いを正しく理解した上で、どちらが自分にとって最善かを判断することが重要です。

廃業とM&Aの違い(クリニックの場合)

具体的に何がどう違うのか、観点ごとに整理します。

  • 通院中の患者:廃業=他院への転院を余儀なくされる。M&A=同じクリニックでそのまま治療継続できる
  • 医療機器・設備:廃業=処分費用が発生(数十万〜数百万円)。M&A=資産として評価され、売却対価に含まれる
  • テナント・原状回復:廃業=原状回復義務で内装解体・退去費用が発生。M&A=テナント契約を引き継ぐため発生しない
  • スタッフ:廃業=全員解雇、退職金支払いが必要。M&A=雇用契約は引き継がれ、退職金支払いも不要
  • カルテ・診療記録:廃業=保管義務(5年間)が院長に残り続ける。M&A=新院長に引き継ぐ
  • 院長への対価:廃業=資産処分後の残余のみ。M&A=患者基盤・のれん込みで売却益を受け取れる
  • 地域医療への影響:廃業=地域医療の空白が発生。M&A=同じ場所で診療継続される

クリニックのように「目に見える設備」と「目に見えない患者基盤」の両方を持つ業種では、廃業による損失とM&Aによる承継益の差が大きく出やすいのが特徴です。

廃業を選んだ場合に発生するコスト

廃業は「ただ閉めるだけ」ではありません。実際には次のような費用と手間が発生します。

  • 医療機器の処分費用:レントゲン・超音波・電子カルテサーバーなどの撤去・廃棄費用。50〜300万円程度
  • テナント原状回復費用:内装解体・配管復旧・床壁の修復。坪単価3〜10万円×坪数。30坪のクリニックで90〜300万円
  • スタッフ退職金:勤続年数・人数による。看護師2〜3名・事務2名で数百万円規模になることもある
  • 各種手続き費用:保険医療機関の廃止届、開設届の廃止、医療法人の解散登記(医療法人の場合)など、行政書士・司法書士費用
  • カルテ保管義務:診療録は5年間、レントゲンフィルムは2年間の保管義務がある。閉院後も院長個人が責任を負う
  • 残債処理:医療機器リース残債、テナント保証金の扱い、運転資金借入の返済

これらをすべて合計すると、小規模なクリニックでも300〜800万円程度の支出が発生することが珍しくありません。さらに「やめるのに数百万円かかる」という現実が、院長にとって精神的にも経済的にも負担になります。

M&Aを選ぶべきクリニックの特徴

すべてのクリニックがM&Aで承継できるわけではありません。一方で、次のような特徴があるクリニックは、M&Aの成約可能性が高いといえます。

  • 固定患者が一定数いる:1日の外来患者数が30人以上、定期通院の慢性疾患患者がカルテ上で確認できる
  • 通院利便性のよい立地:駅徒歩圏、住宅街、駐車場あり、など
  • 医療機器が極端に老朽化していない:10年以内の主要機器がある
  • スタッフが定着している:勤続5年以上のスタッフがいる、急な離職が見込まれない
  • 診療科目に一定の需要がある:内科・小児科・整形外科・耳鼻科・皮膚科など、安定した来院数が見込める科目
  • 訪問診療・在宅医療を行っている:在宅医療の患者基盤は買い手の関心が特に高い
  • 院長が引継ぎ期間(3〜12ヶ月)に協力できる:患者・スタッフへの引継ぎは買い手にとって最重要

逆に「外来患者が極端に少ない」「医療機器が20年以上前のもの」「立地が極端に悪い」といったクリニックは、M&Aより廃業のほうが経済的合理性が高い場合もあります。判断には個別の状況確認が必要です。

スタッフ・患者への影響の違い

廃業とM&Aは、院長本人だけでなく周囲の人たちにも大きな影響を与えます。

スタッフへの影響
  • 廃業の場合:全員が再就職活動を強いられる。医療事務経験者は採用枠が限られ、特に40〜50代の事務スタッフは再就職に苦労することが多い
  • M&Aの場合:雇用契約はそのまま引き継がれ、勤務地・業務内容も変わらない。給与水準も維持されるのが一般的
患者への影響
  • 廃業の場合:転院先を自分で探す必要がある。慢性疾患・在宅医療の患者には特に大きな負担。高齢患者は新しい医師に病歴を一から説明することへの心理的負担も大きい
  • M&Aの場合:同じクリニックに通い続けられる。カルテ・治療歴も引き継がれるため、治療の連続性が確保される

長年にわたって築いた患者・スタッフとの信頼関係を、廃業では一瞬で断ち切ることになります。M&Aは、その関係を次世代の医師に託す選択でもあります。

手続き面の違い

廃業とM&Aでは、必要な行政手続きも大きく異なります。

  • 廃業の手続き:保険医療機関の廃止届(地方厚生局)、診療所廃止届(保健所)、開設者死亡届(医療法人の場合)、確定申告、解散登記など。期間はおよそ1〜3ヶ月
  • M&Aの手続き:保険医療機関の遡及指定申請、診療所の開設届(買い手)、雇用契約の引継ぎ、リース契約の引継ぎ、テナント契約の名義変更、医療法人の場合は理事変更登記。期間はM&A交渉込みで6ヶ月〜1年

M&Aの手続きは廃業より複雑ですが、専門のアドバイザーが入れば手続きはスムーズに進みます。一方、廃業は手続き自体は単純でも「カルテ保管義務」のように閉院後も院長個人に責任が残り続ける点に注意が必要です。

判断に迷ったらまず試算してみる

「廃業のほうが楽かもしれない」と思っていても、実は計算してみるとM&Aのほうが手元に残る金額が多いケースがほとんどです。

たとえば年商5,000万円・営業利益500万円の小規模クリニックの場合:

  • 廃業の場合:機器処分費・原状回復費・退職金など合計で500〜800万円のマイナス。資産売却益は限定的
  • M&Aの場合:時価純資産+営業利益2〜3年分(のれん)で2,000〜4,000万円規模の売却益が見込める

差額は数千万円規模になります。具体的な売却価格の算定方法は、別記事「クリニックの売却相場|価格算定方法と京都の評価ポイント」で詳しく解説しています。

判断の第一歩は、廃業した場合の損失額とM&Aした場合の売却益を試算して比較することです。「廃業しか選択肢がない」と決める前に、一度概算試算を取ってみてください。

クリニックの廃業 vs M&Aでよくある質問

Q1. 患者が少ないクリニックでもM&Aできますか?

1日の外来患者数が10人未満になっているクリニックでもM&Aの可能性はあります。立地・設備・診療科目によっては「集患はこれから自分でする」という前提で買う医師もいます。試算してみないと判断できないので、まずは現状を見せていただくのが最初です。

Q2. 古いクリニックでも引き取り手は見つかりますか?

建物・内装が古くても、立地と患者基盤があれば買い手は見つかります。買い手は「リフォーム前提」で考えていることも多く、外観の古さは大きなマイナスにはならないケースが多いです。

Q3. M&Aを検討してから成約まで、診療は続けられますか?

はい、通常通り診療を続けながらM&Aを進めます。むしろ通常診療を続けることが、買い手から見たときの「現役のクリニック」としての評価につながります。スタッフ・患者には成約直前まで開示しないのが一般的です。

Q4. 院長の体調が悪く、すぐに引退したい場合は?

院長の体調が引退理由の場合、買い手探しを急ぐ必要があります。通常6〜12ヶ月かかるM&Aですが、買い手候補がすでにいる場合は3〜4ヶ月で成約することもあります。早めの相談がポイントです。

Q5. 廃業を進めかけていますが、今からM&Aに切り替えられますか?

保険医療機関の廃止届を提出する前なら切り替え可能です。提出後でも遡及指定で対応できる場合がありますが、手続きは複雑になります。廃業を検討し始めたら、まずM&Aの選択肢があるかを確認してから廃業手続きに入ることをお勧めします。


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まずはご相談ください

「廃業しかない」と思って決断しかけている方ほど、一度ご相談いただきたい内容です。試算をしてみると、思っていた金額とまったく違う結果が出ることがあります。

長年積み上げてきた患者基盤・スタッフ・設備の価値は、想像以上に大きいものです。それを廃業で失う前に、M&Aという選択肢を検討してください。

ご相談は、代表の吾郷が直接お受けします。秘密厳守・着手金ゼロ・成約まで費用は発生しません。

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