調剤薬局の廃業vs M&A|保険指定返上と売却のどちらが得か【京都】

京都府内には、令和6年度末時点で1,214施設の薬局があります(厚生労働省「衛生行政報告例」)。また、2024年の統計では、府内の薬局と医療施設で働く薬剤師は5,124人です(厚生労働省)。

調剤薬局を廃業するときの届出と、保険薬局の指定の返上

調剤薬局を廃業するときは、開設者が2つの届出を出します。

1つ目は、薬局の廃止届です。廃止してから30日以内に、京都市内の薬局なら京都市、それ以外の地域なら京都府に出します(薬機法10条1項)。京都市では、許可証も付けます。

2つ目は、保険薬局の廃止の届出です。こちらは近畿厚生局に出し、保険薬局の指定通知書を付けます。

一方、薬局は続けながら、保険の調剤だけをやめる場合は、保険薬局の指定の辞退になります。辞退は1か月以上の予告期間を設けて行い(健康保険法79条1項)、開設者が近畿厚生局長に申し出ます(指定登録省令10条1項)。

事業譲渡なら、開設許可と保険薬局の指定を取り直す

薬局の開設許可を引き継ぐ規定はなく、京都市は、開設者が替わる場合を、新たに許可が必要な場合として挙げています。

そのため、事業譲渡で薬局を引き継ぐと、新しい開設者が開設許可を取り直し、保険薬局の指定も受け直します。

ただし、指定を受け直すときに、次のような要件を満たせば、指定をさかのぼって受けられます(遡及指定・保医発0605第2号)。

  • 管理薬剤師が同じであること
  • 原則として、開設者以外の職員を全員雇うこと
  • 常勤の薬剤師の5割以上を雇うこと

要件を満たさないと、指定は申請した月の翌月1日からになり、それまでは保険の調剤ができません。

また、2026年6月から「門前薬局等立地依存減算」が始まりました。2026年5月31日までに保険薬局の指定を受けていた薬局が、移転や法人化、開設者の交代で改めて指定を受けた場合は、この減算に当たらないと、厚生労働省の疑義解釈(その2・問9)で示されています。

会社ごと引き継ぐなら、役員の変更届

会社ごと引き継いでもらう形では、薬局を開いている会社は変わりません。

ただし、代表取締役は「薬事に関する業務に責任を有する役員」に当たります。そのため、代表取締役が替わったときは、開設者である会社が30日以内に変更届を出します(薬機法10条1項・同法施行規則16条1項1号)。保険薬局の側でも、開設者の代表者が替わったことを近畿厚生局に届け出ます。

この形で開設許可と保険薬局の指定をそのまま続けられるかは、前もって京都市(京都市以外は京都府)と近畿厚生局に確かめます。

管理薬剤師と職員の引き継ぎ

管理薬剤師を替えるときは、開設者が2か所に届け出ます。京都市(京都市以外は京都府)には30日以内に(薬機法10条1項)、近畿厚生局には速やかに出します(指定登録省令8条1項1号)。

事業譲渡では、新しい開設者が薬剤師や職員を雇い直すことになり、その一人ひとりの承諾が要ります(民法625条1項、厚生労働省の指針)。

特に、管理薬剤師と常勤の薬剤師が移ってくれるかどうかは、遡及指定の要件にそのまま関わります。

門前の医療機関との関係と、卸との取引

薬局を引き継ぐときは、門前の医療機関との関係にも注意が必要です。

保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の2条の3は、保険薬局が医療機関と一体的な構造にしたり、一体的に経営したりすることを禁じています。2026年6月の改正で、オンライン診療を受ける施設も対象に加わりました。

また、患者に特定の保険薬局を指示してもらう見返りに、医療機関や医師に金品を渡すことも禁じています。

さらに、同じ規則の2条の3の2は、自己負担の額に応じた値引きや、患者を紹介してもらった対価など、経済上の利益で患者を誘うことを禁じています。

そのため、門前の医院と「次の開設者にも処方箋を回す」と約束したり、その見返りを渡したりすることは、これらの禁止に触れるおそれがあり、薬局を譲る契約には入れられません。

一方、医薬品の卸との取引契約を事業譲渡で新しい開設者に移すには、卸の承諾が要ります(民法539条の2)。

調剤薬局の値段はどう付く?

値段の目安として、純資産を時価で評価し直した額に、何年分かの利益を加えることもあります(中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2)。

調剤薬局では、足す利益は、管理薬剤師や薬剤師が移ってくれて、遡及指定を受けて保険の調剤を途切れさせずに引き継げるかで変わります。

京都で調剤薬局の今後を考えている方へ

開設許可や保険薬局の指定の手続きに入る前に、ご相談ください。

開設許可と保険薬局の指定をどう取り直すか、遡及指定の要件を満たせるかを、一緒に確かめます。

この記事の数字と出典

項目 内容 出典
京都府の薬局 1,214施設(令和6年度末) 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度
京都府内で働く薬剤師 総数6,800人、うち薬局・医療施設の従事者5,124人(2024年12月31日現在・従業地) 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」令和6年 統計表9
廃止・管理者等の変更の届出 薬局開設者は、廃止・休止・再開したとき、管理者その他省令で定める事項を変更したときは30日以内に届出 薬機法 第10条第1項
責任役員の変更 薬局開設者の氏名(法人は薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名を含む)の変更は10条1項の届出の対象。株式会社では会社を代表する取締役等が責任役員 薬機法施行規則 第16条第1項第1号/厚生労働省通知(令和3年1月29日)
開設者が替わる場合(京都市) 申請者(開設者)の変更は、変更届ではなく、新たに許可が必要 京都市「薬局の許可申請」
廃止届(京都市) 休止・廃止・再開は30日以内に届出。廃止の場合は許可証を添付 京都市「薬局の休止・廃止・再開届」
保険薬局の廃止・辞退 廃止の届出には指定通知書を添付(近畿厚生局)。指定は1月以上の予告期間を設けて辞退できる(健康保険法第79条第1項)。辞退は開設者が申し出る(指定登録省令第10条第1項) 近畿厚生局・健康保険法・指定登録省令
管理薬剤師の異動(保険) 管理薬剤師等に異動があったときは、開設者が速やかに地方厚生局長等に届出 保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令 第8条第1項第1号
遡及指定 開設者の変更等で新たに指定を受ける場合、管理薬剤師が同じ・原則として開設者以外の職員を全員雇用・常勤薬剤師の5割以上を雇用 等の要件で遡って指定 厚生労働省 保医発0605第2号
門前薬局等立地依存減算 令和8年5月31日以前に指定済みの薬局が、移転・法人化・開設者の交代に伴い改めて指定を受けた場合は該当しない 厚生労働省 疑義解釈資料(その2)問9
門前の医療機関との関係 保険医療機関等と一体的な構造・経営の禁止、特定の保険薬局で調剤を受けるべき旨の指示等の対償としての利益供与の禁止(第2条の3)。経済上の利益の提供による誘引の禁止(第2条の3の2) 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(令和8年6月1日施行後)
職員・卸の承諾 職員の個別の承諾(民法第625条第1項・厚労省の指針)。契約上の地位の譲渡は相手方の承諾で移転(民法第539条の2) 民法・厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」
値段の出し方(参考) 時価純資産法(又は簿価純資産法)により算定した純資産に、数年分の任意の利益を加算した金額を譲渡額とする場合もある 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(参考資料2)中小M&Aの譲渡額の算定方法 p.3

最終確認:2026年10月24日

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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
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