京都市が、市内の簡易宿所と民泊に、人を常に置くよう求める方向で検討を進めています。8月31日の検討会議に出された素案には「全ての簡易宿所の施設内又は隣接建物への常駐義務を課す。」とあり、民泊も同じ扱いです。
まだ素案で、市会で決まったものではありません。それでも、受付は離れた場所に置き、何かあれば10分ほどで駆け付ける、という形で回してきた宿には、今のやり方を続けられるかどうかの話になります。京都市内の簡易宿所は2026年3月末で3,169施設、民泊は1,216施設あります。
京都市の外で民宿や小さな旅館をされている方には、民宿・小さな旅館を閉めるときの記事のほうが役に立つと思います。
京都市が8月31日に出した素案
素案を出したのは「京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議」です。市が設けた外部の有識者の会議で、8月31日が2回目でした。
今の京都市の決まりでは、小規模な簡易宿所と京町家の宿は、人を泊めている間、おおむね10分以内で着ける場所に人がいれば営業できます。距離にすると、おおむね800メートル以内です。民泊も同じです。素案はこれを、施設の中か隣の建物に常にいる形に改めようとしています。それ以外の旅館業の施設には、今も施設の中に人を置く決まりがあります。
京町家の宿も、原則として対象にすると書かれています。
一方で、決まっていないことも多く残っています。隣の建物とはどこまでを言うのか。何時から何時までいればよいのか。今ある宿にはどれだけの猶予があるのか。素案は今ある施設についても「猶予期間を与えたうえで一律に規制を行うことも検討」としていますが、期間は書いていません。
困るのは、ふだん宿に人がいない施設
オーナーが同じ建物に住んでいる宿や、受付に人を置いている宿なら、今と大きくは変わらないかもしれません。困るのは、帳場を離れた場所に置いている宿と、帳場を置かずに営業している宿です。市の資料では、「民泊相当」の簡易宿所に寄せられた苦情の48%が、この二つの形の宿に向けられたものでした(2018年度から2025年度末まで)。
そうした宿がいくつあるかは公表されていません。ただ、素案の資料には目安になる数字が載っています。簡易宿所3,169施設のうち、市が「民泊相当」とする小さな施設(客室3室以下など)が2,420施設で、客室は合わせて2,924室です(2026年3月末)。1施設あたり平均1.2室という、ごく小さな宿です。そのうち1,107施設は、京町家として帳場を置かなくてよい特例を受けています。
この二つの数字は、どちらも「常駐が必要になる施設の数」ではありません。それでも、客室1つか2つの宿が2,000を超えてあることは分かります。
人を置けないなら、廃業か事業譲渡か
素案のとおりに決まれば、人を置いていない宿は、人を置くか、廃業するかを選ぶことになります。
隣に自宅や事務所がある宿なら、続ける見込みは立てやすいでしょう。ただ「隣接建物」がどこまでを指すのかは、まだ決まっていません。今の駆け付けの体制で足りるのかどうかも、距離の基準が出るまで分かりません。
人を雇って置くとなると、客室が1つか2つの宿では、宿泊料から人件費を出すのは楽ではありません。続けるのが難しければ、廃業するか、事業を譲渡するかです。
ここで、簡易宿所と民泊では事情が違います。
簡易宿所は許可ごと譲渡できる。民泊は届出を引き継げない
簡易宿所は、旅館業法の許可で営業しています。2023年12月の改正で、事業を譲るとき、譲る人と譲り受ける人がそろって承認を受ければ、譲り受けた人が営業者の地位をそのまま継げるようになりました(旅館業法第3条の2)。京都市内では、京都市長の承認です。
京都市の手続では、標準処理期間が23日(閉庁日などを除く)、手数料が8,900円です。事業譲渡で許可を引き継ぐことを近所に説明した状況を示す書類も出します。承認は、譲渡の効力が生じる日より前に受けておく必要があります。手続の流れは事業譲渡で許可を引き継げるかの記事で、業種ごとに書いています。
民泊は違います。住宅宿泊事業法には、届出を誰かに引き継ぐ決まりがありません。法律にあるのは、事業をやめたときなどに30日以内に届け出ることだけです。譲り受けた人は、自分で新しく届け出ることになると考えられます。京都市では、届け出る20日前から建物に掲示し、近所に説明することが条例で決まっています(京都市住宅宿泊事業の適正な運営を確保するための措置に関する条例 第8条)。
住居専用地域の民泊には、もう一つ大きな問題が残っています。素案には、住居専用地域と工業地域では民泊の営業日数をゼロにする案があり、今ある施設には当てはめないとされています。では、譲り受けた人が新しく届け出たとき、その民泊は「今ある施設」として扱われるのか。素案には書かれていません。住居専用地域の民泊を譲渡するつもりなら、ここが決まるまでは結論を急がないほうがいいと思います。
許可ごと譲渡できるのは、廃止届を出す前だけ
簡易宿所の許可を事業譲渡で引き継げるのは、廃止届を出す前だけです。京都市は、廃止届を出した後は譲渡の承認の手続ができないと書いています。廃止届を出せば許可はそこで終わり、次にその建物で宿を営む人は、新しく許可を取ることになります。
気をつけたいのは、客室1つか2つの宿に買い手はつかないだろうと考えて、先に廃止届を出してしまうことです。近くで宿を営んでいる人や、京町家の宿を探している人から見れば、許可がついたまま引き継げるかどうかで手間は大きく違います。
承認の申請から結果が出るまでには、標準で23日(閉庁日などを除く)かかります。廃業を決める前に、譲渡の相手がいるかを一度当たってみてください。
2月の市会までの日程と、今のうちにしておくこと
市が示している日程は、11月2日に3回目の検討会議、11月中に規制案、そのあと1か月ほどのパブリックコメントを経て、2月の市会に条例の改正案を出す、というものです。決まるまでに、中身はまだ動くかもしれません。
それまでにしておけるのは、今の運営の体制を把握しておくことです。帳場はどこにあって、誰がいるのか。何かあったとき、誰が何分で駆け付けているのか。許可を受けているのは個人か会社か。建物は持ち家か借家か、借りているなら契約はいつまでか。
規制の中身が出たとき、何を変えれば続けられるか、譲るなら何をそろえればよいかを、これがあれば早く判断できます。
京都市で宿をされている方へ
素案は、11月の会議でまた変わるかもしれません。新しい案が出たら、この記事も書き直します。
廃止届を出す前にご相談ください。事業を譲渡できる相手がいるかどうか、一緒に確かめます。
この記事の数字と出典
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 京都市の規制強化策(素案) | 全ての簡易宿所・届出住宅(民泊)に、施設内又は隣接建物への常駐義務を課す案。既存施設も猶予期間を与えたうえで一律に規制を行うことも検討。京町家も原則対象。住居専用地域・工業地域の民泊は営業日数を規制(いわゆるゼロ日規制・既存施設には適用しない)。想定スケジュール=11月中に規制案→パブリックコメント(約1か月)→2月市会に条例改正案を提案。検討中 | 京都市「地域の実情を踏まえた民泊規制強化策(素案)」第2回京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議(2026年8月31日) |
| 今のルールと「民泊相当」の施設 | 小規模宿泊施設・京町家施設と届出住宅は、おおむね10分以内(おおむね800m以内)に到着できる場所に駐在。民泊相当(小規模宿泊施設と、客室3室以下等の小規模相当施設)の簡易宿所は2,420施設・2,924室(2025年度末)、うち京町家として玄関帳場設置免除の特例を受けている件数1,107。民泊相当施設への苦情の48%が外部帳場・京町家(2018〜2025年度末) | 同上 資料(11・16・17・27枚目) |
| 京都市の宿泊施設数 | 簡易宿所 2026年3月末 3,169施設・1万8,204室(2026年8月末速報 3,231施設)。届出住宅 2026年3月末 1,216施設(2026年8月末速報 1,360施設) | 京都市「宿泊施設数の推移」(令和8年8月末日現在 速報値) |
| 旅館業の事業譲渡 | 譲渡人と譲受人がその譲渡及び譲受けについて承認を受けたときは、譲受人は営業者の地位を承継(第3条の2)。許可・承認は保健所を設置する市では市長(第3条第1項) | 旅館業法 第3条・第3条の2 |
| 京都市の承継承認の手続 | 事業譲渡の効力発生日前までに承認が必要。廃止届の提出後は事業譲渡の手続はできない。審査手数料8,900円・標準処理期間23日(閉庁日等を除く)。近隣住民等に説明した状況を示す書類が必要 | 京都市「旅館業の地位の承継や変更等の手続について」 |
| 民泊の届出 | 住宅宿泊事業法に営業者の地位の承継の規定はない。死亡・合併・廃止等は30日以内に届出(第3条第6項) | 住宅宿泊事業法 第3条 |
| 京都市で民泊を届け出るとき | 届出の20日前から標識を掲げるまで住宅ごとに掲示し、同時期に近隣住民に説明 | 京都市住宅宿泊事業の適正な運営を確保するための措置に関する条例 第8条 |
最終確認:2026年10月10日
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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
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