「会社を売ったら、長く働いてくれた従業員はどうなるのか」。会社の売却を考え始めた社長が、最初に気にかけるのはここではないでしょうか。
中小企業白書2026には、帝国データバンクが2025年11〜12月に行った調査(回答1万2,289社)の結果が載っています。会社の売却を考えたことがある企業が、問題として挙げたことの1位は「売却後の従業員の処遇への不安」でした。2位は「組織文化の違いによる摩擦」です。
この記事では、京都で会社の売却を考え始めた経営者に向けて、売った後に従業員の雇用がどうなるのか、何をどう約束してもらえばよいのかを、白書と国の中小M&Aガイドラインをもとに整理します。
会社ごと売るか、事業だけ売るかで、雇用の移り方が変わる
会社ごと売る場合(株式譲渡)は、会社の持ち主が代わるだけで、従業員を雇っている会社そのものは変わりません。そのため、従業員との雇用の契約は、原則としてそのまま続きます。勤めた年数も、その会社との契約の中で数えられていきます。
事業だけを売る場合(事業譲渡)は、話が違います。従業員が買い手の会社に移るには、一人ひとりの承諾が必要で、本人の意思に反して移されることはありません(民法第625条)。承諾をもらう前には、買い手の会社の概要や移った後の労働条件を十分に説明し、話し合うことが適当とされています。承諾しなかったことだけを理由に解雇することもできません。
事業譲渡の場合、退職金や有給休暇をどう扱うかは、譲渡の条件として買い手と確かめておく必要があります。有給休暇の日数のもとになる勤め続けた期間は、在籍の実態で判断されます。承諾の手続きは、会社の引き継ぎの手続きを整理した記事で詳しく書いています。
どちらの形を選ぶかで、従業員にとっての変わり方が大きく違います。従業員の暮らしを守りたいなら、形を決める段階から、雇用のことを条件として話しておく必要があります。
「雇用は守ります」を、何で約束してもらうか
買い手から「従業員はそのまま雇います」と言われても、口約束のままでは、売った後に守られる保証はありません。
国の中小M&Aガイドラインは、最終契約で決める主な内容の一つとして、経営者や役職員の処遇を挙げ、その例に「従業員の雇用継続の努力義務等」を示しています。雇用を続けることは、必ず守らせる義務ではなく、「努めること」として契約に書く形が想定されています。
それでも、契約に書いておくかどうかで、買い手の受け止め方は変わります。雇用を続ける人の範囲、給与や役職などの条件、いつまで続けるのかを、できるだけ具体的に書いてもらってください。口約束で済ませず、最終契約の中に書いてもらう。売る側にできる、一番確かな約束の取り方です。
買った後の統合に取り組む買い手は約4割
白書によると、2019年以降に会社や事業を買った企業のうち、買った後の統合(経営や業務、組織をまとめていく取り組み)に取り組んでいるのは約4割でした。
取り組んでいる企業が、買収の効果を高めるのに役立ったと答えたのは、買った会社の従業員との対話、相手の経営者との対話、従業員の雇用を続けることの約束の順でした。白書は、統合に取り組むことが買収の効果を高めることに「つながる可能性がある」としています。
売る側から見れば、「買った後、従業員とどう話していくつもりか」を、相手に聞いておく価値があります。
従業員に、いつ、どう伝えるか
従業員に売却のことを伝える時期は、慎重に選ぶ必要があります。早すぎると、話がまとまる前に不安が広がり、辞めてしまう人が出るおそれがあります。遅すぎると、「知らないうちに売られた」という気持ちを残します。
伝える時期と順番、それまで秘密を守る方法は、別の記事で詳しく書いています。
従業員を大事にする相手かを見極める
中小M&Aガイドラインは、売り手の経営者は売った後の従業員の処遇を気にかけることが多いとしたうえで、買い手の経営者が、売り手の役員や従業員に高圧的な態度を取らず、自分の会社の役員や従業員と同じように接する姿勢かどうかを、確かめておくことを挙げています。
また、白書によると、2019年以降に会社や事業を買った企業が買った相手として一番多かったのは、同じ業種で、もともと取引のあった会社でした。買い手の評価も、この組み合わせが一番高い結果です。仕事の中身を分かっている相手なら、従業員の技術や経験の値打ちも伝わりやすくなります。
相手を見極めるために、面談では次のようなことを聞いてみてください。
- 今の従業員の雇用と給与を、どう考えているか
- 買った後、従業員とどう話していくつもりか
- これまでに引き継いだ会社で、従業員はどうなったか
実際に従業員が残った例
当社が支援した成約事例から、従業員のその後を紹介します。
飲食店では、アルバイトを中心とする約20名の従業員がそのまま残り、店は今も人気店として続いています。EC事業では、従業員がそのまま残り、事業は買い手のノウハウでさらに磨かれています。債務超過だった製造業では、買い手が評価した約5名の職人が今も働いています。サービス業では、3名の従業員が今も働いています。
それぞれの事例は、成約実績のページにまとめています。
京都で会社の今後を考えている方へ
白書の調査では、約8割の企業が、そもそも会社の売却を考えたことがないと答えています。売却を考えるとき、従業員のことが一番の気がかりになるのは自然なことです。
当社は、京都府内の小さな会社の引き継ぎで、従業員の雇用を大事な条件として相手を探しています。従業員のことが気がかりで一歩目が出ない方も、まずはその不安から聞かせてください。
この記事の数字と出典
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 白書の調査 | 帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」。2025年11〜12月・Web調査・回答1万2,289 | 中小企業庁『2026年版 中小企業白書』第1部第1章(注) |
| 売却を検討するうえでの問題点 | 1位「売却後の従業員の処遇への不安」、2位「組織文化の違いによる摩擦」(売却を検討したことがある事業者の回答)。約8割は売却を検討したことがない | 同 第2-2-81図 |
| 買収後の統合(PMI)の実施 | 「大いに・ある程度取り組んでいる」は約4割(2019年以降に買収した事業者) | 同 第2-2-77図 |
| 効果を高めるのに有効だった統合の取組 | 1位 買収先従業員との相互理解、2位 買収先経営者との相互理解、3位 買収先従業員の雇用継続の保証表明 | 同 第2-2-79図 |
| 買収先の業種と取引関係 | 「同業種・取引あり」が最多。取引ありの方が「想定以上の効果が得られた」割合が高く、同業種ではさらに高い | 同 第2-2-73図・第2-2-74図 |
| 最終契約で取り決める内容 | 経営者・役職員の処遇(経営者による引継ぎ期間や、従業員の雇用継続の努力義務等) | 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」p.49 |
| 買い手の姿勢の確認 | 譲り受け側経営者が譲り渡し側の役員等に高圧的な態度を取らず、同等に接する姿勢かを確認しておくことが考えられる | 同 p.46〜47 |
| 株式譲渡と従業員 | 株主が変わるだけで、従業員との契約等は原則存続する | 同 参考資料1「中小M&Aの主な手法と特徴」 |
| 事業譲渡と従業員 | 労働契約の承継には労働者本人の承諾が必要。承諾前に労働条件等を説明し協議することが適当。承諾しないことのみを理由とする解雇は認められない | 民法 第625条第1項/厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」 |
| 年次有給休暇の継続勤務 | 事業場における在籍期間を意味し、勤務の実態に即して実質的に判断される | 千葉労働局「年次有給休暇」リーフレット |
最終確認:2026年10月8日
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ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。
監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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