会社なら、株を譲れば、店も設備も取引先も従業員も、会社に付いたまま次の経営者に渡ります。個人で営んでいる店や事業は、店主本人が契約や許可の名義になっているので、この方法が使えません。
個人事業を人に譲るときは、店を借りる契約、設備や在庫、取引先との契約、従業員の雇用、営業の許可を、一つずつ買い手に移します(事業譲渡)。このうち一つでも移せないものがあると、買い手は譲り受けた日から同じように営業できません。
何を引き継いでもらい、値段はどう決まるのか
厨房の機械や工具、車両、在庫は、今の値打ちで計り直せば値段が出ます。屋号や、通ってくれるお客さん、付き合いのある取引先、仕事の段取りは形がありませんが、買い手から見れば、店を開けた日から売上が立つかどうかに関わります。
値段は、設備や在庫の今の値打ちに、こうした形のない分(のれん、営業権ともいいます)を上乗せして考えます。のれんを毎年の利益の何年分と見るかは、買い手との話し合いで決まります。何を渡して何を手元に残すかが決まらないと値段の話に入れないので、渡すものの一覧が最初の材料になります。
従業員は、一人ひとりの同意で移る
雇い主が雇う権利を人に譲るには、働く人の承諾が要ります(民法第625条)。個人事業の従業員に買い手のもとで働いてもらうには、一人ひとりの同意を得て、今の雇用を終え、買い手と新しく雇用の契約を結ぶ形になります。
給料や働く時間、これまで勤めた年数をどう扱うかは、従業員がいちばん気にするところです。買い手と移った後の条件を先に決めてから、従業員に話します。移ってもらう人の条件を、譲る契約の中でどう決めるかは、会社を売ったら、従業員はどうなるのかで書いています。
取引先やお客さんとの関係をどう渡すか
仕入れ先や納め先との契約は、相手が承諾すれば、契約の当事者としての立場ごと買い手に移せます(民法第539条の2)。相手から見れば取引の相手が代わるので、いつ、誰から、どう伝えるかも段取りに入れておきます。
お客さんとの関係は、契約書で移せるものではありません。前の店主がしばらく店に出て、新しい店主を紹介していく期間を、譲る条件の中で決めておくこともあります。
借りている店は、大家さんの承諾が要る
店や事務所、倉庫を借りているなら、借りる権利を買い手に譲るには大家さんの承諾が要ります(民法第612条)。承諾を得ないまま買い手に使わせると、大家さんは契約を解除できます。
承諾を得て今の契約を買い手に引き継いでもらう場合、預けていた敷金は、未払いの家賃などを差し引いた残りが、原則として店主に返ります(民法第622条の2)。大家さんが、買い手と新しく契約を結び直すことを求める場合もあり、そのときは今の内装をそのまま使ってよいかも一緒に話します。
許可は、業種ごとに扱いが違う
営業の許可や届出は、店主本人の名義です。事業を譲るときにそれを買い手に引き継げるかは、業種ごとの法律で決まっています。
飲食店は、譲り受けた人が保健所に届け出れば営業許可を引き継げます(食品衛生法第56条・2023年12月13日から)。店ごと譲る場合に限られ、設備だけを渡すときは使えません。クリーニング店も、譲り受けた人が届け出て引き継ぎます(クリーニング業法第5条の3)。旅館業は、簡易宿所も含めて、譲る側と譲り受ける側が承認を受ければ引き継げます(旅館業法第3条の2)。建設業は、前もって認可を受ければ、個人の事業でも許可を引き継げます(建設業法第17条の2)。
酒の販売には条件があります。譲り受ける人が、親族か、その事業に3年以上携わってきた人で、これまでと同じ場所で続ける場合は、税務署に申告すれば免許を受けたものとみなされます(酒税法第19条と国税庁の通達)。当たらなければ、買い手が新しく免許を取ります。
こうした手続きをしないまま譲ると、買い手が許可を取り直すまで営業できない期間ができます。ここに挙げていない業種の許可は、事業譲渡で許可は引き継げるかで確かめられます。
借入と、譲った後の届出
個人事業の借入は、店主個人の借金です。事業を譲っても、借入が買い手に移るわけではありません。買い手に借入を引き受けてもらうには、銀行が承諾するか、銀行と買い手の間で契約を結ぶことが要ります(民法第470条・第472条)。譲った代金で返すのか、買い手に引き受けてもらうのかは、銀行と話す時期も含めて段取りに入れておきます。
事業をやめたら、税務署に個人事業の廃業の届出を出します。期限は、やめた年の確定申告の期限までです(所得税法第229条)。譲った代金にかかる税金の扱いは、税理士に確かめてください。
京都で店や事業の今後を考えている方へ
つなぐパートナーズは、京都府内の個人の店や事業を譲るご相談もお受けしています。
廃業の届出を出す前にご相談ください。何を誰に引き継いでもらえるか、許可や大家さんとの話の進め方とあわせて、一緒に確かめます。
この記事の数字と出典
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 契約の引き継ぎ | 契約の当事者の一方が第三者と契約上の地位を譲渡する合意をし、相手方が承諾したときは、契約上の地位は第三者に移転する | 民法 第539条の2 |
| 借りている店 | 賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡せない。無断で第三者に使用させたときは賃貸人は解除できる(第612条)。適法に賃借権を譲り渡したときは敷金の残額を返還(第622条の2) | 民法 第612条・第622条の2 |
| 従業員 | 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない | 民法 第625条第1項 |
| 借入の引き受け | 免責的債務引受は債権者と引受人の契約、又は債務者と引受人の契約に債権者が承諾することでできる(第472条)。併存的債務引受(第470条) | 民法 第470条・第472条 |
| 飲食店の営業許可 | 2023年12月13日から、営業の事業譲渡は譲受人が届出で営業者の地位を承継(事業の一部の譲渡は対象外) | 食品衛生法 第56条/厚生労働省「事業譲渡に関する手続が整備されました」 |
| クリーニング所 | 届出をした営業者が営業を譲渡したときは、譲受人が地位を承継し、遅滞なく届け出る | クリーニング業法 第5条の3 |
| 旅館業(簡易宿所を含む) | 譲渡人及び譲受人が譲渡及び譲受けについて承認を受けたときは、譲受人が営業者の地位を承継する | 旅館業法 第3条の2 |
| 建設業 | 建設業者が建設業の全部を譲渡する場合、あらかじめ認可を受ければ譲受人が建設業者としての地位を承継する | 建設業法 第17条の2 |
| 酒類の販売・製造 | 個人の事業の全部の譲渡で引き続き営もうとする譲受人は遅滞なく申告(酒税法第19条)。『引き続き』=譲受人が親族(民法725条)又は3年以上従事した者で、かつ同じ製造場・販売場で事業をすること | 酒税法 第19条/酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第19条第1項関係2 |
| 個人事業の廃業の届出 | 事業を廃止した場合は、その事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出 | 所得税法 第229条/国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」 |
最終確認:2026年10月21日
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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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