「知り合いの行政書士に譲りたいけれど、相手にはもう事務所があるし、申請の途中の案件をどう渡せばよいのかも分からない」。そんな不安から、事務所の今後を考え始める方もいると思います。
事務所を譲り受けられるのは、法律上、行政書士と行政書士法人に限られています(行政書士法第19条第1項)。個人の行政書士は、事務所を2つ以上設けることができず、例外的に認めてもらう制度もありません。そのため、すでに開業している行政書士に事務所を譲る場合は、現在の事務所をどうするのか、最初に決めておく必要があります。
京都府行政書士会の会員数は、個人が1,005人、法人が34です(2026年10月1日時点、日本行政書士会連合会)。京都府内の法人会員を譲渡先として探す場合、候補となるのは34法人です。
行政書士事務所を事業譲渡できる相手は誰?
事務所の譲渡を考える際は、まず譲渡先になれる相手を確認しておきましょう。
官公署に提出する書類などの作成を、他人から依頼を受け、報酬を得て業として行えるのは、行政書士と行政書士法人に限られます。2026年1月に施行された改正では、この禁止規定に「いかなる名目によるかを問わず」という文言が追加されました。また、従業員などが違反した場合には、会社にも罰金が科されます。契約や業務の名目を変えて、資格のない会社が書類作成業務を引き継ぐことは認められません。
行政書士を雇用している一般の会社に事務所を譲る方法も使えません。日本行政書士会連合会の職務基本規則第7条第2項では、行政書士が会社などに雇用され、その会社に行政書士の業務を行わせることを禁止しています。京都府行政書士会の新規登録の手引にも、「行政書士として雇用され、又は勤務することはできません」と明記されています。
相手がすでに開業していたら、2つ目の事務所は持てる?
譲渡先がすでに開業している個人の行政書士の場合、確認が必要なのが事務所の数です。
個人の行政書士は、事務所を2つ以上設けることができません。2つ目の事務所を認めてもらうための許可制度もありません(行政書士法第8条)。そのため、近隣の行政書士に事務所を譲る場合でも、現在の事務所をそのまま個人の2つ目の事務所として残すことはできません。受任中の案件や職員を、相手が現在運営している事務所に移す方法を検討することになります。
一方、行政書士法人であれば、従たる事務所の数や設置場所に制限はありません(日本行政書士会連合会の手引)。ただし、各事務所には、その府県の行政書士会に所属する社員を常駐させなければなりません(行政書士法第13条の14)。法人に雇用されている行政書士が勤務しているだけでは、事務所として認められません(同じ手引)。京都の事務所を拠点として残したいなら、京都府行政書士会の会員である社員を置ける法人かどうかを確認しておきましょう。
申請途中の案件と職務上請求書はどうする?
譲渡先の事務所の形が決まったら、次は受任中の案件をどのように引き継ぐかが問題になります。
自分の事務所に勤務していない別の行政書士に業務を引き継いでもらう場合は、依頼人の同意が必要です(行政書士法施行規則第4条)。また、職務基本規則第43条では、業務を続けられなくなった行政書士に対し、依頼者に損害が生じないよう、ほかの行政書士への引き継ぎなど、必要な措置を講じるよう求めています。
事務所の事業譲渡に伴って受任中の契約を移す場合も、依頼人が承諾した契約に限って譲渡先に引き継ぐことができます(民法第539条の2)。
依頼人から預かっている書類に含まれる個人情報については、事業譲渡に伴う提供は個人情報保護法上の第三者提供には当たらないため、本人の同意は必要ありません。ただし、譲渡先は、引き継ぎ前と同じ利用目的の範囲内で個人情報を取り扱う必要があります。
京都府の建設業の窓口では、委任状のあて先が事務所になっている場合、その事務所に所属する行政書士が窓口に来ても「使者」として扱われます。申請途中の案件について、譲渡先の行政書士に代理人として手続きを進めてもらうには、その行政書士を復代理人とする委任状が必要です(京都府建設交通部指導検査課の案内)。委任状のあて先を案件ごとに見ておくと、引き継ぎの途中で申請が止まらずにすみます。
戸籍などの取得に使う職務上請求書は、ほかの行政書士に譲渡したり貸したりすることができません。未使用分が残っていても、譲渡先に渡すことはできない決まりです。行政書士の登録が抹消された場合や、行政書士法人が解散する場合には、未使用分をすべて京都府行政書士会に返却します(日本行政書士会連合会の職務上請求書の規則)。
補助者として働く職員の雇用はどうなる?
受任中の案件とあわせて、職員の雇用についても確認が必要です。
行政書士は補助者を置くことができ、補助者を採用したときや、退職などで補助者でなくなったときには、行政書士会への届出が必要です(行政書士法施行規則第5条)。
日本行政書士会連合会が各会向けに示している補助者の規則のひな形では、雇用している行政書士の登録が抹消されると、補助者としての身分も失うことになっています。譲渡先の事務所で引き続き補助者として働いてもらう場合は、譲渡先の行政書士が改めて補助者の届出を行う必要があります。
事務所の譲渡に伴って職員を譲渡先に移す場合は、職員一人ひとりから承諾を得なければなりません。移ることに同意しなかった職員を、そのことだけを理由に解雇した場合、解雇が無効となる可能性があります(厚生労働省の指針)。
行政書士が亡くなったときの届出と、法人の続け方
事務所の譲渡を検討する際には、行政書士本人に万一のことがあった場合の決まりも見ておきましょう。
個人の行政書士が亡くなった場合は、四親等内の親族または同じ世帯に住んでいた人が、京都府行政書士会を通じて日本行政書士会連合会に届け出ます(行政書士法施行規則第12条)。
行政書士法人の場合、社員のうち1人が亡くなっても、法人が引き続き受任中の業務を行います。ただし、社員が1人だけの法人では、その社員が亡くなると法人は解散する扱いになります。
この場合でも、清算人が相続人の同意を得たうえで行政書士を新たな社員として迎えれば、法人として再び業務を続けることができます(行政書士法第13条の19の2)。また、京都府行政書士会の会長も、裁判所に対して清算人の選任を申し立てることができます(日本行政書士会連合会の会則)。
社労士法人には、後継候補者をあらかじめ連合会に届け出ておく制度があります。これに対して、行政書士法人には同様の仕組みは見当たりません。日本行政書士会連合会の手引では、社員が亡くなった場合の持分の取り扱いについて、定款に定めておくかどうか検討するよう勧めています。
行政書士事務所の売却価格はどう決まる?
受任中の案件や職員の引き継ぎ先が見えてきたら、次に検討するのが譲渡価格です。
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)の参考資料2では、値段の出し方の一つとして、時価に修正した純資産に、何年分かの利益を加算する方法を紹介しています。加算する利益の種類や年数は案件によって異なり、最終的には交渉によって決まることが多いとされています。なお、この方法は行政書士事務所に特化した売却相場を示すものではありません。計算方法の詳細については、会社の売却相場はどう決まるで説明しています。
行政書士事務所の譲渡では、受任中の契約のうち譲渡先に引き継げるのは、依頼人が承諾したものに限られます(民法第539条の2)。そのため、純資産に上乗せする金額は、譲渡後も契約を続けてもらえる依頼人がどの程度いるかで変わります。
値段の話の前に、売上のうち、許可の更新や顧問のように繰り返し依頼される仕事がどれだけあるかを見ておいてください。
行政書士事務所の譲渡を京都で考え始めたら、まず確認すること
最初に、申請途中の案件を一覧にし、手元に残っている職務上請求書の枚数も確認しておきましょう。案件の一覧を作っておけば、引き継ぎにあたって誰から同意を得る必要があるのかを把握できます。また、職務上請求書の残数は、京都府行政書士会への返却手続きで必要になります。相手が決まっていない段階でも、この2つは確認できます。
相手を探す前に、譲ったあとご自身がしばらく残って手伝うのか、すぐに離れるのかを決めておくと、話が進めやすくなります。
事務所を誰に譲るかを考え始めたら、ご相談ください。相手が行政書士事務所を引き継げる立場にあるか、申請途中の案件と続いている依頼をどの順で渡すかを、一緒に確認します。急いで相手を決める必要はありません。
この記事の数字と出典
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 京都府行政書士会の個人会員 | 1,005です(2026年10月1日現在) | 日本行政書士会連合会「会員数」 |
| 京都府行政書士会の法人会員 | 34です(2026年10月1日現在) | 同「会員数」 |
| 業務の制限(2026年1月1日から) | 行政書士・行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として書類の作成(第1条の3)を行えません | 行政書士法 第19条第1項(令和7年法律第65号で改正) |
| 違反したときの法人の罰金 | 法人の従業者等が違反すれば、法人にも罰金が科されます(両罰) | 行政書士法(令和7年法律第65号で改正) |
| 会社に雇われて業務をさせること | 行政書士は、行政書士の身分を有したまま、団体・法人等に雇用され、当該法人等に行政書士の業務を行わせてはなりません | 日本行政書士会連合会「行政書士職務基本規則」第7条第2項 |
| 京都府行政書士会の手引 | 「行政書士として雇用され、又は勤務することはできません」 | 京都府行政書士会「行政書士新規登録の手引」第4版(令和8年7月8日) |
| 事務所の数 | 行政書士は事務所を二以上設けてはなりません(許可による例外の定めはありません) | 行政書士法 第8条 |
| 法人の従たる事務所 | 数・地域の制限はありません | 日行連「行政書士法人の手引」(令和5年12月) |
| 法人の事務所の社員 | 各事務所に、その府県の会の会員である社員を常駐させます | 行政書士法 第13条の14 |
| ほかの行政書士に業務をさせる | 依頼人の同意を得て、他の行政書士(従業者である行政書士を除く)・行政書士法人に行わせることができます | 行政書士法施行規則 第4条 |
| 続けられなくなったとき | 依頼者が損害を被ることがないよう、事件の中止や他の行政書士に引継ぐ等の適切な措置をとります | 行政書士職務基本規則 第43条 |
| 申請途中の案件(京都府の窓口) | 委任状の受任者が事務所(代表者)なら、所属の行政書士は使者の扱いです。代理人とするには復代理人への委任が必要です | 京都府建設交通部指導検査課「各種申請・届出に係る本人確認と訂正権限について」(令和7年12月2日) |
| 職務上請求書の譲渡・貸与 | 何人にも譲り渡し、貸与してはなりません | 日行連「職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則」第10条 |
| 職務上請求書の返却 | 登録の抹消・法人の解散で、未使用分のすべてを所属単位会に返戻します | 同 規則 第15条 |
| 補助者の届出 | 補助者を置いた・異動した・置かなくなったときは、行政書士会に届け出ます | 行政書士法施行規則 第5条 |
| 補助者の身分 | 会員の登録が抹消されると、補助者は身分を失います | 日行連「行政書士会補助者規則(準則)」第15条 |
| 職員の承諾(事業譲渡) | 承継予定労働者から個別の承諾(民法第625条第1項)を得る必要があります | 厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」 |
| 承諾しない職員の解雇 | 承諾しなかったことのみを理由とする解雇は、無効になり得ます | 同 指針 |
| 契約の承継 | 契約上の地位の譲渡は、相手方が承諾したときに移転します | 民法 第539条の2 |
| 個人データ | 事業の承継に伴う個人データの提供は、第三者提供に当たりません | 個人情報保護法 第27条第5項第2号/個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編)3-6-3 |
| 死亡の届出 | 死亡したときは、四親等内の親族又は世帯を同じくしていた者が、行政書士会を経由して日行連に届け出ます | 行政書士法施行規則 第12条 |
| 一人法人の継続 | 清算人は、社員の死亡で社員が欠けた場合に限り、相続人の同意を得て新たに社員を加入させて法人を継続できます | 行政書士法 第13条の19の2(令和元年法律第61号で新設) |
| 清算人の選任の申立て | 単位会の会長も、清算人の選任を申し立てられます | 日行連 会則 第81条の4 |
| 値段の出し方(参考) | 時価純資産法(又は簿価純資産法)により算定した純資産に、数年分の任意の利益を加算した金額を譲渡額とする場合もあります | 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(参考資料2)中小M&Aの譲渡額の算定方法 p.3(2024年8月) |
| 加算する利益 | 種類・年数は事例ごとに異なり、交渉によって決まるケースが多いとされています | 同 参考資料2 p.3 |
最終確認:2026年10月22日
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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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