京都の料亭・日本料理店の廃業と事業承継|店と職人、お得意様を引き継いでもらう道【京都】

京都の料亭を店ごと誰かに引き継いでもらうときは、飲食店の営業許可のほかに、二つの決まりがかかることがあります。芸妓が席について客をもてなす店には風俗営業の許可が、町家の店には京都市の京町家の条例がかかります。どちらも、閉めるのか、誰にどの形で引き継いでもらうのかで、出す書類と期限が変わります。

料亭の値段は、どう決まるのか

値段は、毎年どれだけ利益が残っているかと、建物、設え、器、厨房の設備の今の値打ちをもとに、引き継ぐ相手と話し合って決めます。

土地と建物を自分で持っているなら、建物ごと売るのか、建物は持ったまま相手に貸すのかを決めます。借りているなら、大家さんの承諾が先です。店の営業を譲る形で引き継ぐ場合、借りている人は、大家さんの承諾がなければ借りる権利を相手に移せません(民法第612条)。器や掛け軸を店と一緒に渡すのか、手元に残すのかも、値段に入ります。

板場の職人と仲居さんが残れるか

料亭の料理と段取りは、板長を中心にした板場の職人が受け持っています。引き継いだ後も職人が残るかどうかで、次の経営者が同じ料理をすぐに出せるかが決まります。

店の営業を譲る形では、職人や仲居さんは、引き継ぐ相手と雇用の契約を結び直します。雇い主の立場は、働く人の承諾がなければ人に譲れません(民法第625条)。株式を譲って会社ごと引き継いでもらう形なら、雇っている会社は変わりません。どちらの形でも、給料と働き方の条件は、話の早い段階で相手と確かめておきます。

ふぐを出す店では、ふぐの毒のある部分を取り除く「ふぐの処理」を、京都府の免許を受けたふぐ処理師が受け持ちます。ふぐ処理師でない人は、ふぐ処理師の立ち会いと指示がなければ処理に携われません。免許証は、人に譲ったり貸したりできません(京都府の条例)。免許を持つ職人が辞めると、店の中でふぐを処理できる人がいなくなります。

お得意様と出入りの業者はどうなるか

店ごと引き継いでもらえば、屋号と、通ってくれているお得意様との付き合いも、次の経営者に渡ります。

魚や野菜を納めてきた業者、器や花を扱う店との取引は、店の営業を譲る形なら、相手の承諾を得て新しい経営者との取引に切り替えます(民法第539条の2)。会社ごと引き継ぐ形なら、取引をしている会社は変わりません。どちらの形でも、取引の契約書に、経営者や株主が替わったときの決まりが書かれていないかを見ておきます。

営業許可は届出で引き継げる。接待をする料亭の許可は別

飲食店の営業許可は、2023年12月13日から、店の営業をすべて譲り受けた人が、許可を受けた人の立場を引き継げるようになりました。譲り受けた人は、そのことを届け出ます(食品衛生法第56条)。京都市では、医療衛生センターに「地位承継届」を出します。

芸妓が席について客をもてなす料亭は、風俗営業の許可が要る営業に当たります。警察庁の運用基準は、この許可が要る「接待」をする人として、料理店で芸者が接待する場合を挙げています。許可証に書かれる営業の種類は「料理店」です。

風営法が定めている許可の引き継ぎは、許可を受けた人が亡くなったときの相続の承認と、会社の合併・分割の承認の3つです(第7条〜第7条の3)。相続では、亡くなった日から60日以内に公安委員会へ申請して、承認を受けます。店の営業を譲る形の引き継ぎは法律に定めがなく、営業を譲り受ける人は、新しく許可を受けることになります。合併の承認は、合併の効力が生じる前に受けておく必要があり、承認の前に効力が生じると、もとの許可はその時点で効力を失います(警察庁の運用基準)。

株式を譲って会社ごと引き継いでもらう場合は、許可を受けている会社そのものは変わりません。代表者や役員が替わったときは、公安委員会に届出書を出します(風営法第9条第3項)。

料亭を引き継ぐ相手として考えられる人

京都では、代々家族で営んできた料亭を店主が手放すと決め、京都の外で飲食店をいくつも営む会社が経営を引き継いだ例が報じられています。屋号と建物、看板の味は残っています。当主が退くのをきっかけに、飲食とは別の業種の会社が京都の老舗料亭の経営を引き継いだことも、その会社が発表しています。京都の外では、後継者がおらず高齢のご夫婦で営んできた老舗料亭を、地元で会社を立ち上げた人が引き継いだことを、地元の銀行が発表しています。

このほか、ホテルや旅館を営む会社、店で育った板長や職人、町家の建物を活かして店や宿を開きたい会社も、相手として考えられます。どの相手でも、会社ごと引き継ぐのか、店の営業だけを譲り受けるのかで、風俗営業の許可の扱いと、職人の雇用の引き継ぎ方が変わります。

町家の料亭は、壊す前と持ち主が変わるときに届出

京都市の京町家の条例では、市が指定した重要京町家と、市が指定した地区(京町家保全重点取組地区)にある京町家を壊すときは、持ち主が、壊し始める日の1年前までに市に届け出ます(第19条)。店を閉めて建物を取り壊すつもりなら、この1年を先に見込んでおきます。重要京町家を届け出ずに壊すと、5万円以下の過料の対象です(第29条)。

重要京町家は、持ち主が変わったときも、新しい持ち主が遅滞なく市に届け出ます(第18条)。建物ごと相手に売る場合は、買った相手がこの届出をします。建物を借りて店を営んでいる場合も、条例は、借りている人に京町家を適切に維持管理するよう努めることを求めています(第5条)。

京都で料亭の今後を考えている方へ

料亭のご相談では、建物を持っているか借りているか、芸妓が上がる座敷があるか、ふぐを出しているか、町家が指定を受けているかを最初に伺います。そのうえで、どの形で誰に引き継いでもらえるかを一緒に考えます。

飲食店の営業の廃止を届け出ると、その営業許可は相手に引き継げなくなります。届け出る前にご相談ください。

この記事の数字と出典

項目 内容 出典
営業許可の承継 営業の譲渡により許可営業者の地位を承継し、届け出る(2023年12月13日施行) 厚生労働省通知「事業譲渡による旧許可営業者の地位の承継について」(令和5年11月21日)・食品衛生法第56条
承継の届出(京都市) 譲渡・相続・分割・合併のとき「地位承継届」を医療衛生センターへ。譲渡は譲渡を証する書類等を添付 京都市「営業許可申請方法」
接待をする人 「料理店で芸者が接待する場合」を含む。特定少数の客の近くで継続して談笑の相手となる、客専用の客室で歌舞音曲を見せる等は接待に当たる 警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準」(令和8年7月1日)第2
許可証の営業の種類 待合、料理店、料亭等の和風の営業は「料理店」 同 運用基準 第12
許可の承継 相続(死亡後60日以内に公安委員会に申請して承認・第7条)・法人の合併(あらかじめ承認・第7条の2)・分割(あらかじめ承認・第7条の3)。営業の譲渡による承継の定めはない 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 第7条〜第7条の3
合併の承認の時期 承認の前に合併の効力が生じた場合は、従前の許可はその時点で失効する 同 運用基準 第14
代表者・役員の変更 許可申請書の記載事項(法人の代表者の氏名・役員の氏名及び住所等)に変更があったときは公安委員会に届出書 風営法 第9条第3項・第5条第1項
京都府警の事務 風俗営業の許可・相続・法人の合併・法人の分割の章立て 京都府警察本部訓令「風俗営業等の事務取扱いに関する訓令」(令和7年12月12日改正)
ふぐの処理 ふぐ処理師でない者は処理に従事できない(ふぐ処理師の立会いと指示の下を除く)。免許証は他人に譲り渡し、貸与できない 京都府「ふぐの処理及び販売の規制に関する条例」第3条・第6条
京町家の解体の届出 重要京町家と京町家保全重点取組地区の京町家は、所有者が解体着手日の1年前までに市長へ届出 京都市京町家の保全及び継承に関する条例 第19条
重要京町家の所有者の変更 新たに所有者となった者が遅滞なく市長へ届出。無届の解体等は5万円以下の過料 同 条例 第18条・第29条
事業譲渡で移すもの 従業員=労働者の承諾(第625条)/取引の契約=相手方の承諾(第539条の2)/借りている建物=賃貸人の承諾(第612条) 民法
京都の料亭を飲食の会社が引き継いだ例 代々家族で営んできた料亭を店主が手放すと決め、京都の外で飲食店を営む会社の経営で再開(報道) 京都新聞(2026年5月1日)
別の業種の会社が引き継いだ例 当主の引退を契機に、企画会社が京都の老舗料亭の経営を継承(会社の発表) 企業の発表(2013年7月3日)
地元の会社が引き継いだ例 後継者がおらず経営者夫婦も高齢の老舗料亭を、法人を設立して引き継ぐ(愛媛県) 愛媛銀行の発表(2024年6月3日)

最終確認:2026年10月22日

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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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