「顧問税理士に株価を出してもらったけれど、この金額で本当に買い手がつくのか分からない」。会社の売却を考え始めた社長が、最初に迷うところだと思います。
中小企業の売却価格は、純資産に利益の数年分を上乗せする方法や、似た上場会社の倍率を当てはめる方法などで算定した金額をもとに、買い手との交渉で決まります。国の手引きである中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2では、上乗せする利益の年数を「通常1年~3年」としています。一方、成約案件を分析した調査では、平均3.47年という結果が出ています。決算書から算出した金額は、交渉の出発点です。実際の譲渡額は、最終的に売り手と買い手が合意した金額になります。
純資産から会社の価値を出す方法(簿価純資産法・時価純資産法)
交渉の土台となる株式の価値は、まず純資産をもとに算出します。手引きでは、簿価純資産法、時価純資産法、類似会社比較法の3つで算定した価値をもとに交渉するケースが多いとしています。
簿価純資産法は、貸借対照表に記載された純資産の額を、そのまま株式の価値とする方法です。簡単に算出できる一方、帳簿上の金額と現在の価値に大きな差がある会社や、帳簿に記載されていない資産・負債がある会社では、実際の価値を表さないことがあります。
これに対して時価純資産法は、資産と負債を時価で評価し直し、帳簿に載っていない資産や負債も加えて、純資産を算出し直す方法です。
帳簿に載っていないものの例として、手引きでは保険の解約返戻金と、従業員に将来支払う退職金にあたる退職給付債務を挙げています。解約返戻金があれば純資産は増え、退職給付債務があれば減ります。
ただし、すべての資産を評価し直すには、費用も時間もかかります。そのため中小企業の譲渡では、株式の価値に大きく影響し、時価も調べやすい不動産や有価証券など、一部の資産・負債だけを時価に置き換える「修正簿価純資産法」が使われることも多いとされています(参考資料2)。
純資産に、利益の何年分を足す?(年買法)
純資産だけでは、会社がこれから稼ぐ力が価格に反映されません。そこで手引きでは、時価純資産(または簿価純資産)に数年分の利益を上乗せした金額を譲渡額とする場合もある、としています。
上乗せする利益は「税引後利益又は経常利益等」、年数は「通常1年~3年」です。どちらも事例ごとに異なり、交渉によって決まるケースが多いとされています(参考資料2)。
利益に年数を掛けて純資産に上乗せする部分を営業権といい、この方法は年買法(年倍法)と呼ばれています(京都大学経営管理大学院のワーキングペーパー)。
私が相談を受けるときは、決算書の利益をそのまま使わず、社長の役員報酬や一時的な費用を戻した「実態の利益」で見ています。
成約データで見るEV/EBITDA倍率と年数
経済産業省の委託調査の報告書(2026年3月31日)では、M&A支援機関登録制度に登録している仲介業者やFAが国に報告した案件のうち、2024年4月から2025年3月までに成約し、譲渡価額や財務の数字が正常な中小M&Aの倍率をまとめています。
株式の譲渡価額に純有利子負債を加えた金額が、EBITDA(営業利益+減価償却費)の何倍にあたるかを示すEV/EBITDA倍率は、中央値が7.3倍でした。真ん中の半分にあたる案件は3.6〜15.5倍の範囲に収まっており、案件によって倍率に4倍以上の開きがあります。
株式の譲渡価額が帳簿上の純資産の何倍かを示すPBRは中央値1.3倍(真ん中の半分は0.7〜2.5倍)、純利益の何倍かを示すPERは中央値11.7倍(同じく5.8〜23.1倍)でした。
PBRの下から4分の1にあたる値は0.7倍です。つまり、帳簿上の純資産を下回る価格で成約した案件が、4件に1件以上あったことになります。
これらの倍率は、成約した価格をあとから会社の数字で割って算出したものです。あらかじめ倍率を掛けて売却価格を決めたわけではありません。ご自身の会社の数字に倍率を当てはめて、売却価格を計算しておく必要はありません。
京都大学経営管理大学院のワーキングペーパー(2023年)では、2018年7月から2023年6月までに成約した未上場の中小企業の取引1,800件について、時価純資産に上乗せされた営業権が利益の何年分にあたるかを調べた分析を紹介しています。
平均は3.47年、中央値は3.21年で、3〜4年の案件がもっとも多くなっていました。ここでいう利益は、臨時の費用などを除き、税金と利息を支払ったあとの利益です。赤字や債務超過で年数を算出できない案件と、20年を超える案件は除かれています。
手引きにある「通常1年~3年」と比べると長く見えますが、上乗せする利益の定義が異なるため、そのまま比べることはできません。
似た上場会社と比べる方法(EV/EBITDA倍率法)とは?
類似会社比較法は、売却する会社によく似た上場会社の価値と財務の数字から倍率を算出し、その倍率を当てはめて株式の価値を求める方法です。
中小企業の譲渡では、EBITDA(簡易的に「営業利益+減価償却費」で算出することが多い)を使ったEV/EBITDA倍率法がよく使われます(参考資料2)。
手引きの計算式では、EBITDAに倍率を掛けた金額から、有利子負債から現預金を差し引いた金額(純有利子負債)を引いたものが、株式の価値です。
つまり、利益が同じであれば、借入金が多い会社ほど株式の価値は低く出ます。また、中小企業の株式は上場会社の株式に比べて売買しにくいため、30%程度割り引くケースもあります。比べる上場会社の選び方が適切かどうかにも、注意が必要です。
売却額は何で変わる?買い手候補の数と社長の年齢
同じワーキングペーパーでは、買い手候補が何社あったかによって、年数の平均に違いが出ていました。
候補が1社だった案件は3.7年、2社は4.0年、3社は4.3年、4社は5.3年、5社では8.0年です。買い手候補が1社の場合と5社の場合では、上乗せされた利益の年数に2倍以上の差があったことになります。
売却する会社の社長の年齢によっても違いが見られました。年齢が若いほど年数は高く、年齢が上がるにつれて低くなっています。
社長が40歳未満の会社では、譲る理由として成長のためを挙げる回答が多く、60歳以上では後継者がいないことを挙げる回答が多かったと説明されています。
建設と製造の業界については、会社の所在地ごとの年数も載っていて、土木の会社の売却の記事で紹介しています。
事業だけを譲る形である事業譲渡では、取引先との契約は、取引先が承諾して初めて買い手に移ります(民法539条の2)。移らなかった契約から得られる利益は、買い手には入りません。
大口の取引先がある会社では、その取引先の承諾が見込めるかを先に確認しておくと、交渉の途中で売却価格の前提が崩れずにすみます。
京都で会社の売却相場を知りたい方が、今日できること
まずは、直近3期分の決算書を手元にそろえておきましょう。純資産も、上乗せする利益も、決算書の数字をもとに算出するためです。
あわせて、帳簿に載っていない保険の解約返戻金や、退職金の見込みがあるかも見ておくと、時価で評価し直したときに会社の価値がどちらへ動くのか、早い段階でつかめます。細かな計算まで、ご自身で済ませておかなくても大丈夫です。
値段の話で迷ったら、私はまず、価格・従業員の雇用・取引先・引き渡しの時期のうち、何をいちばん優先するかを社長に決めてもらいます。
京都で会社の売却を考えている方は、買い手と値段の話を始める前にご相談ください。直近の決算書をもとに、純資産をどこまで評価し直すのか、利益の何年分を上乗せすると価格がどう変わるのかを、一緒に確認します。できるところから、少しずつ進めてみてください。
この記事の数字と出典
最終確認:2026年10月25日
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まずはご相談ください
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決算書が手元にあれば、話が早く進みます。
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ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。
監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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