M&A仲介のトラブルを避けるために|国の規制強化の動きと、売り手が契約前に確かめたいこと【京都】

会社を譲った後、買い手が会社の預金などを自分の側に移し、会社は支払いができなくなって倒れる。外れるはずだった社長の個人保証は、そのまま残る。中小企業庁は2024年5月から、こうした買い手に注意するよう呼びかけています。

国の登録制度に登録している仲介会社やFAは、2026年9月24日時点で3,362あります。登録している会社が国に報告した、2024年度に成約したM&Aは、売り手側で4,940件、買い手側で4,708件でした。M&Aの件数が増えるなかで、国は仲介会社と買い手への対応を強めています。

M&A仲介のトラブルに、国がすでにしていること

2024年10月、国は不適切な買い手とのM&Aを手伝った登録業者15社に注意を出しました。2025年1月24日には、1社の登録を取り消しています。買い手の資金に疑いがあると知りながら成約させたことなどが理由です。その後も注意は続き、2026年9月1日には、営業のやり方について注意が出ました。

国には、仲介会社などの対応で困ったことを知らせる窓口があります。2024年度に寄せられた情報は126件でした。匿名でも知らせられます。登録業者は、この窓口に相談したことだけを理由に、秘密保持の違反として扱わないと誓約しています。ただ、窓口はトラブルを解決してくれる場所ではありません。

今の登録制度は任意で、仲介の手数料にも一般的な法律の決まりはありません。国は2026年6月の方針で、登録制度を見直し、個人の資格制度とあわせて「法制化を目指す」と書きました。どんな規制になるのかは、まだ示されていません。

国が注意を呼びかけている、会社のお金を移して倒産させる買い手

国の注意喚起の文面では、こうした買い手は、売り手の経営者保証を引き受けず、会社の現預金などを移して支払いに問題を起こし、倒産させるとされています。同じことを何度も繰り返した買い手がいる、とも書かれています。

値段の話にも関わります。国は「経営者保証の引受けを前提に低額の譲渡額での譲り受けを提示されている場合等」は特に注意するよう書いています。安く買う代わりに保証を引き受けると言ってきた相手こそ、気をつけるべきだということです。

会社が倒れれば、売った社長だけでは済みません。働いている人の給料や、取引先への支払いが止まることになりかねません。社長が会社を譲るときに守りたかった人たちが、そのまま巻き込まれます。

そして保証が外れていなければ、銀行から返済を求められるのは社長個人です。

経営者保証の解除は、最終契約の前に段取りを決める

国のガイドラインは、経営者保証の扱いを、最終契約で決めておく項目の一つにしています。保証を外せるかどうかを最後に決めるのは銀行です。成約した後で銀行に相談を始めると、外れないおそれがあります。

そこでガイドラインは、保証の解除を引き渡しの条件にすること、外れなかったときに契約を解除したり補償を受けたりできる条項を入れること、引き渡しの日に買い手のお金で借入を返してもらい、買い手が借り直す方法を示しています。最終契約の前に、買い手と一緒に銀行へ相談しておくことも考えられる、としています。

保証が外れるまでの実務の流れは、社長の個人保証と借金はどうなるのかで詳しく書いています。

買い手をどこまで調べるのかを、契約の前に聞く

ガイドラインでは、仲介会社は、買い手をどう調べるのかを、売り手と契約する前に説明しなければならないとされています。調べる中身の例として挙がっているのは、買い手の財務の状態、反社会的勢力かどうか、過去にM&Aでトラブルを起こしていないか、本当に事業をしているか、代金を払えるお金があるか(預金通帳や融資証明書の確認など)です。

売り手が頼めば、仲介会社は調べる中身の見直しを検討しなければなりません。一方でガイドラインは、こうした確認にも限界があり、買い手の信用を保証できるほどではない、とも書いています。

働いている人と取引先を預ける相手です。何を調べて、何は調べないのかを、紙で受け取っておくと安心です。

手元にいくら残るか(手数料・中間金・専任契約)

会社がいくらで売れても、手数料しだいで社長の手元に残る金額は変わります。国の窓口に寄せられた例には、「M&A支援機関に支払う成功報酬は売却代金の5%と聞いていたが、最低報酬金額が適用され、想定よりも高い手数料を払うことになった。」というものがあります。

国の委託調査の報告書(2026年3月)によると、会社の値段(株の値段に、借入金から現預金を引いた額を足したもの)が5,000万円を超える案件では、値段に対する手数料の割合の真ん中の値は10%程度でした。値段が小さい案件ほど、最低手数料がかかるため、割合は高くなります。京都の小さな会社の売却なら、料率を聞く前に、最低手数料がいくらかを確かめてください。

手数料を何を元に計算するか(売値か、借入金も含めた資産か)でも、金額は大きく変わります。ガイドラインは、こうした手数料の決め方を、契約の前に書面で説明するよう求めています。

途中で払うお金の一つが、基本合意のときなどに払う中間金です。国の聞き取りでは、中間金は一切返さないと契約書に書いている会社や、実際の売値が見込みより下がっても差額を返さない会社がありました。中間金を払う契約なら、どんなときに返ってくるのかを契約書で確かめてください。

専任契約の期間と、契約が終わった後も手数料がかかる期間(テール条項)も見ておきたいところです。ガイドラインの目安は、専任契約が長くても6か月から1年、テール条項が長くても2年から3年です。これより長ければ、理由を聞いてください。当社の手数料の決め方は、報酬のページに書いています。

M&A仲介の選び方で、契約の前に見ること

国の登録制度のデータベースでは、登録している会社の名前と手数料の決め方を、誰でも調べられます。契約の前に見ておくと、受けた説明と食い違っていないかが分かります。

担当者の保有資格や経験年数、成約の実績も、契約の前に説明してもらえることになっています。今ある「M&Aの資格」は民間のものです。国は個人向けの資格制度を準備していて、試験の実施機関には銀行研修社が選ばれました。試験は2027年1〜2月が想定されていますが、日程はまだ公表されていません。合格しないと仲介ができない、という仕組みにはなっていません。

最終契約の中身も、署名の前に説明を受けてください。同じ報告書には、売り手が出した資料をもとに作られた契約書の一部が誤っていたのに、最終契約のときに説明がなく、売り手が気づかないまま署名し、引き渡しの後に買い手からその部分の履行を拒まれた、という事例が載っています。分からない条文は、弁護士にも見てもらうと安心です。

即決を迫る営業や、高すぎる評価額を見せる営業は、ガイドラインで禁じられています。相談先の選び方は、中小企業診断士に頼むと、M&Aアドバイザーとどう違うのかにも書いています。

京都で会社の売却を考えている方へ

当社は国の登録制度に登録しており、中小M&Aガイドラインに沿って売却を進めています。すでにほかの仲介会社と話を進めていて、契約の中身や買い手が気になっている方には、セカンドオピニオンのご相談もお受けしています。

仲介会社と契約する前にご相談ください。手数料と中間金、経営者保証の外し方まで、契約書のどこを見ればよいかを一緒に確かめます。

この記事の数字と出典

項目 数字 出典
登録しているFA・仲介業者 3,362件(2026年9月24日時点・法人2,590件、個人事業主772件)。登録は任意 中小企業庁(2026年9月24日公表)
登録業者が報告した成約 2024年度 譲渡側4,940件・譲受側4,708件(登録業者がFA・仲介として契約し最終契約に至った中小M&A。全てのM&Aを網羅していない) M&A支援機関登録制度「集計結果」
国の注意喚起と登録の取消し 2024年5月から、経営者保証を引き受けず現預金等を移して倒産させる買い手に注意喚起。2024年10月に15社・2025年1月に6社・2025年3月に1社へ注意。2025年1月24日に1社の登録を取消し。2026年9月1日に営業行為について注意 M&A支援機関登録制度「M&Aに係るトラブルの発生を踏まえた対応について」各回
情報提供受付窓口 2024年度に寄せられた情報126件(ガイドライン違反に当たらないものを除く・複数の支援機関に触れたものは重複)。匿名可。登録業者は相談のみを理由に秘密保持義務違反として扱わないと誓約。紛争解決の場ではない 中小M&A市場の改革に向けた検討会 第4回 資料2 p21/登録制度「情報提供受付窓口」
手数料の割合 「一般的に、案件規模が小さくなると最低手数料が適用されるため、手数料率は高くなる傾向にある」(手数料率=報酬金額÷譲渡価額) 中小M&A市場の改革に向けた検討会 第4回 資料2 p24
手数料の割合と不適切な事例(国の委託調査) 企業価値(株式価額+ネット有利子負債)が5千万円を超えると報酬率の中央値は10%程度、高くなるに従い中央値は低下。株式譲渡額が少額な区分ほど報酬率が高い(p32〜33)。契約書の一部の誤りを最終契約時に説明されず、クロージング後に譲受側から一部の履行を拒否された事例(p42) 経済産業省 委託調査報告書「中小M&A支援の実態把握に関する事業」(2026年3月31日)
中間金 「中間金は一切返還しない旨を記載して合意している」「実際の譲渡価額が下回っても差分の返還はしない」(国による支援機関への聞き取り) 中小M&A市場の改革に向けた検討会 第5回 資料2 p20
中小M&Aガイドライン(第3版) 経営者保証の扱いを最終契約で定める(p49)・解除の可否は最終的に金融機関の判断(p51)・クロージング条件・解除/補償条項・買い手の資力での返済と借り換え(p52)/手数料に一般的な法規制はない(p63)・手数料の算定基準等を契約前に書面で説明(p88)/買い手の調査の概要を契約前に説明(p101)/専任は最長でも6か月〜1年・テールは最長でも2〜3年(p104〜105)/即時の判断を迫る営業・過大なバリュエーションの提示は禁止(p85) 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」
法制化の方針 M&A支援機関登録制度を見直し、資格制度とあわせて「法制化を目指す」 中小企業庁「稼ぐ力」強化戦略(2026年6月24日)
個人の資格 中小M&A資格試験(仮称)の実施事業を株式会社銀行研修社に委託(2026年5月1日採択)。試験日・申込は未公表 中小企業庁 採択結果

最終確認:2026年10月10日

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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
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