酒蔵・日本酒製造業の売却価格の相場は?M&Aの価格の決め方を解説

「うちの酒蔵はいくらで売れるのか」。相談の中でよくいただく質問です。酒蔵のM&A価格は、通常の製造業とは異なる評価要素があります。

酒蔵の売却価格の基本的な考え方

小規模M&Aでは一般的に「時価純資産+年倍法(修正営業利益の数年分)」で算定されます。ただし酒蔵の場合、通常の製造業にはない特殊な評価要素が価格に大きく影響します。

酒蔵で特に価格に影響する要素

①酒類製造免許の希少性

日本酒の製造免許は現在新規交付が原則として行われていません。既存の免許を持つ酒蔵は希少であり、免許そのものが大きな無形資産として評価されます。財務的な収益性とは別に、免許の希少性が価格を押し上げる要因になります。

②銘柄・ブランドの知名度

全国新酒鑑評会の入賞歴・メディア掲載・海外輸出実績・SNSでの認知度は、財務諸表には表れないブランド価値として評価されます。無名の銘柄より知名度のある銘柄の方が、買い手の引き継ぎ後のビジネス展開が容易なため、高く評価されます。

③杜氏・蔵人の継続意向

酒造りの技術を持つ杜氏・蔵人が引き継ぎ後も継続して働く意向があるかどうかは、価格に直接影響します。技術者が残らない場合、買い手は新たに人材を確保する必要があり、評価が下がることがあります。

④蔵の建物・設備の状態

醸造設備・貯蔵タンク・蔵の建物の状態が評価されます。歴史ある蔵の建物は、観光資源・体験施設としての価値も持ちます。

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伏見ブランドの価値

京都・伏見の酒蔵は「伏見の酒」という全国ブランドを持ちます。伏見の地下水「伏水」を使った日本酒は、産地ブランドとして特別な価値があります。同じ規模・収益性の酒蔵でも、伏見に立地しているかどうかで評価が変わることがあります。

M&Aで想定される買い手と価格への影響

酒蔵のM&Aでは、買い手の属性によって価格の決まり方が変わります。大手酒造メーカー・飲料グループが買い手の場合、ブランド取得・製造能力拡大が目的のため、銘柄の知名度が価格に大きく影響します。一方、醸造家・クラフト酒造を目指す個人が買い手の場合、免許・設備・蔵の状態が重視されます。

海外の投資家・外資系企業が買い手になるケースも増えています。日本の伝統的な酒蔵ブランドへの関心が高まっており、輸出実績・英語での情報発信実績がある酒蔵は特に評価が上がります。

免許は事業譲渡では移らない。だから株式譲渡になる

酒蔵の売却で価格以前に決まってしまうのが、取引の形です。清酒の製造免許は税務署長が製造場ごとに与えるもので、法人に付いています。事業譲渡で設備と銘柄だけを渡しても、免許は買い手に移りません。清酒の新規免許は原則として交付されないため、買い手が事業譲渡で蔵を引き継いでも、酒を造れないことになります。

そのため酒蔵のM&Aは、株式譲渡(法人ごと引き継ぐ)か、合併や会社分割の形を取ります。個人事業の蔵は、法人成りをしてから株式譲渡する段取りが要ることがあります。この構造があるので、蔵の値段には「造れる権利そのもの」の価値が含まれます。決算が赤字でも、免許と製造場があるというだけで買い手がつく理由はここにあります。

なお、2021年4月からは輸出専用の「輸出用清酒製造免許」が新設されています。国内向けには販売できない免許なので、国内販売を含めて事業を続けたい買い手にとっては、既存の免許を持つ蔵の意味は今も大きいと言えます。

在庫と酒税と建物。酒蔵だけの値付けの要素

一般の製造業と違い、酒蔵では3つの項目が価格を大きく動かします。

  • 在庫。タンクの原酒や瓶詰めした製品は、帳簿では原価で載っています。熟成させて価値が上がる酒もあれば、売れ残って減耗する酒もあります。買い手は在庫を1本ずつ見て、帳簿と別の値段を付けます。棚卸しを正確にしておくことが、価格交渉の出発点です。
  • 酒税。製造場から出荷した時点で酒税がかかります。未納の酒税や、出荷済みで未回収の売掛は、そのまま負債と資産として引き継がれます。決算書に酒税の状況が分かる資料を添えると、買い手の調査が短くなります。
  • 建物。古い蔵は観光資源として評価される一方、登録有形文化財に指定されていると改修に制約があり、耐震や設備更新の費用を買い手が見積もります。「歴史ある蔵」は加点にも減点にもなります。

値段の出し方の例

時価純資産が3,000万円、杜氏の給与などを適正に直した後の営業利益が年500万円の蔵なら、営業利益の2年分を足して4,000万円前後が出発点です。ここに、銘柄の知名度と輸出実績、杜氏と蔵人が残るかどうかで上下がつきます。杜氏が引き継ぎ後も数年残る約束ができる蔵は、上限側で話が進みます。伏見のように産地の名前で売れる蔵は、同じ数字でも高めに見られます。京都市内の蔵では、建物を試飲や見学の場として使えるかどうかも、買い手が見る点です。京都府内の伏見以外の蔵でも、輸出先では「京都の酒」として通る点は同じ利点になります。逆に杜氏が高齢で引退が近い蔵は、買い手が杜氏を連れてくる前提になり、その分が価格から引かれます。

まず財務諸表を見せていただければ

「自分の蔵がいくらになるか知りたい」という入口で構いません。財務諸表(決算書)と銘柄の状況を見せていただければ、おおよその価格帯をお伝えできます。


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監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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