66歳。京都で食品卸の会社を42年やってきた社長の話です。(実際のご相談をもとに、業種や状況を変えて再構成しています)
決算報告の席だった。顧問の先生が資料をめくりながら、いつものように言った。「今年も黒字です。社長、まだまだ続けましょう」。30年の付き合いになる先生だ。ありがたい言葉のはずだった。
なのにその夜、社長は眠れなかった。
先生は、何も間違っていない
数字は正しい。黒字なのも本当だ。先生はこの30年、うちの会社が続くように力を尽くしてくれた。資金繰りが苦しかった年も、税務調査のときも、先生がいたから乗り越えられた。感謝しかない。
ただ、布団の中で気づいてしまった。
自分はいつまでこの会社をやるんだろう。それを先生と話したことは、この30年で一度もない。
体は正直だ。朝の市場がこたえるようになった。息子は東京で別の仕事をしていて、戻る気はない。番頭は自分より三つ上だ。「まだまだ続けましょう」——それは、いつまでだろう。続けた先に、何があるんだろう。
「やめる話」は、誰の仕事なのか
次の月次の面談で、思い切って口にしかけた。「先生、実は、この先のことなんですが」。先生は顔を上げて、「ああ、設備の件ですか」と言った。違う、と言えなかった。話はそのまま、来期の話になった。
帰り道で考えた。先生の仕事は、会社が続くようにしてくれることだ。ずっとそうやってもらってきたし、それで助かってきた。やめる話は、たぶん先生の仕事とは違うのだ。先生が悪いんじゃない。頼む相手が違うだけなのかもしれない。
じゃあ、誰に聞けばいいのか。それが分からなかった。
家族に言えば心配させる。同業の集まりでは口が裂けても言えない。銀行には、もっと言えない。「続けましょう」以外の話を、誰ともしたことがないまま、66歳になっていた。
布団の中で、スマホに打ち込んだ
ある晩、布団の中でスマホを手に取った。「会社 たたむ 相談」。指が勝手に動いていた。
画面には、廃業の手続きの話が並んでいた。その中に、少し違うことが書いてあるページがあった。たたむ以外にも道があること。会社を誰かに引き継ぐという選択肢があること。そして——まだ決めていない段階で相談していい、と書いてあった。
決めていない。まさに自分のことだった。売るのか、続けるのか、たたむのか。何も決まっていない。決まっていないから、誰にも言えずにいた。
先生を裏切ることには、ならない
それでも、ためらいがあった。顧問の先生に黙って、よその専門家に相談する。それは30年の付き合いに対する裏切りじゃないのか。
これについては、はっきりお伝えしたいことがあります。
裏切りではありません。顧問の先生の仕事は、会社の「今」を守ることです。事業の引き継ぎや会社の譲渡は、それとは別の専門分野です。国が定めた中小M&Aのルールでも、別の専門家に意見を聞くこと(セカンドオピニオン)は、経営者の当然の権利として認められています。かかりつけ医がいる人が、手術のときに専門医の意見を聞くのと同じです。かかりつけ医への不義理には、なりません。
実際、この社長も最初の相談でこう言いました。「先生には、まだ言わないでおきたいんです」。もちろんです、とお答えしました。相談したことは誰にも伝わりません。顧問の先生に話すかどうか、いつ話すかも、社長が決めることです。検討の結果「もう少し続ける」と決めるなら、誰にも知られないまま、何もなかったことにすればいい。
眠れない夜の正体は、たぶん「答えが出ないこと」ではありません。聞ける相手がいないことです。
まだ売ると決めていなくて、かまいません。顧問の先生への義理も、欠きません。「いつまでやるんだろう」——その話を一度、口に出してみるところからで大丈夫です。
ご相談は無料・秘密厳守です。代表の吾郷が直接お受けします。
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「いつまでやるんだろう」——その話からで大丈夫です。売る・売らないを決める前の、整理のお手伝いをします。
一人で抱えているより、一度ご相談いただく方が、気持ちが楽になることがあります。
ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。
監修:中小企業診断士・事業承継士 吾郷 泰佑
京都府を中心に、小規模M&A・事業承継のご相談に1,000件以上向き合ってきました。完全成功報酬で、ご相談から成約まで代表が直接伴走します。
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