これは、実際の相談をもとにプライバシーに配慮してフィクションとして再構成した物語です。
話せるわけがない。
売却を考えていることを、社員には。
社長が会社を立ち上げたのはもう30年近く前のことだ。最初は自分ひとりで、気がつけば5人になり、7人になった。大きくしようとは思っていなかった。ただ、目の前の仕事を丁寧にやり続けた。それだけだった。
後継者のことを、深く考えたことはなかった。
息子はとっくに都会の大手企業に就職している。継ぐとも継がないとも言っていない。それが答えだと社長は思っている。
従業員の中に後継者がいるかというと、そういう話でもない。小さな会社はそういうものだ。社長がいて、社員がいる。社員の中から後継者を育てようと思ったことは、一度もなかった。そういう規模の会社ではないし、その必要もなかった。
売却を考え始めたのは、体のことがきっかけだった。
ある時期から、疲れが抜けなくなった。若い頃は翌朝には戻っていたものが、週をまたいでも残るようになった。病気というほどではない。ただ、確実に何かが変わっていた。
そのとき初めて、「自分がいなくなったら」を現実として考えた。
廃業という言葉が頭に浮かんだ。手続きして、片付けて、終わりにする。それが一番シンプルだと思った。
でも、そこで社員の顔が浮かんだ。
もう10年以上一緒にやっているベテランがいる。数年前に子供が生まれたと報告してきた若いスタッフがいる。自分が廃業すれば、みんな明日から職を失う。次の仕事がすぐ見つかる保証なんてない。
特別な出来事があったわけじゃない。毎月給与を振り込むたびに、賞与を渡すたびに、ずっとそう思ってきた。みんなの生活は、自分にかかっている。その感覚だけが、ずっとそこにあった。
M&Aという言葉は知っていた。大企業の話だと思っていた。
でも調べてみると、自分くらいの規模でも成立するらしい。会社ごと誰かに引き継いでもらえる。社員もそのまま残れる可能性がある。
その言葉を読んだとき、社長が最初に思ったのは自分の老後ではなかった。
「みんなの仕事が、なくならなくていい」
それだけだった。
まだ迷っている社長へ
社員を守りたいという気持ちがあるなら、それだけで相談する理由になります。売ると決めていなくても構いません。廃業と売却、どちらが社員にとっていいのか。それを一緒に考えることから始められます。
「売ると決めたわけではない」という段階でも構いません。
会社がいくらになるのか、廃業と売却どちらが得なのか——そういった入口でも、お話をお聞きします。
一人で抱えているより、一度ご相談いただく方が、気持ちが楽になることがあります。
ご相談を、代表の吾郷が直接お受けします。


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